「中小企業白書」斜め読み――山積する課題は乗り越えられるかIT Oasis(1/2 ページ)

2008年度版中小企業白書は「IT活用」が1つの目玉になっている。これは政府のIT化政策と連動していると思われるが、中小企業の実情と照らし合わせて読んでみると、いろいろな問題点が浮かび上がってくる。

» 2008年07月01日 09時29分 公開
[齋藤順一,ITmedia]

なぜ今、中小企業のITなのか

 中小企業庁から2008年度版中小企業白書(以下白書)が公開された。今年の白書はスゴイ。何がそんなにスゴイのか。「中小企業によるITの活用」という独立した章が設けられたのである。中小企業白書といえば事業承継とか地域とのかかわりとか、どちらかというとシブイ内容の話題が多かったのだが、今年はITである。せっかくだから白書に書かれたITを少し斜めに透かして読んでみよう。白書全文は中小企業庁のホームページからダウンロードできる。

 過去の白書にITという単語は申しわけ程度に出てくるだけだった。それが今年はITという単語が500回以上連呼されるのである。今なぜ、中小企業でITなのか。

 考えられる理由がある。2006年に出された政府のIT化政策をまとめた「IT新改革戦略」である。

 その中で、

  • 基幹業務にITを活用する中規模中小企業の割合を60%以上に
  • EDIプラットフォームを利用する企業の割合を60%以上に
  • 中小企業の取引先のうち電子商取引を実施する企業の割合を50%以上に

 といった2010年までの成果目標が掲げられたのである。言ったからにはやらねばならないのである。

国の支援スキームなしでは難しい問題も

 白書では、三菱UFJリサーチ&コンサルティングのアンケート結果をもとに考察を加えている。いいことが書いてあるので私見を加えて紹介したい。

 まず以下のような文章がある。

 『IT資本の蓄積が必要ない理由として、アンケート回答で「事業規模が小さく、高度な情報処理は必要ない」ことが高い割合であったことから、小規模な企業の場合、業務の内容がシンプルなためにIT化による合理化の余地がない可能性が考えられる(白書から引用。以下同)』

 その通りである。より本質的にはその会社の情報流量が少ないということが理由であろう。中小企業はモノづくりや対面販売など直接部門比率が高く、情報を取り扱う間接部門の割合が少ないのである。すべての中小企業にITが必要というわけではない。効果がある企業は限られている。

 次は経営課題とIT活用について。

 『中小企業は大企業と比べるとITの活用を経営課題として重視している割合が低いが、ITの活用を経営課題として重視している企業ほど増収増益となっていることを踏まえ、より多くの中小企業が経営上の課題としてITの活用を十分重視していくことが望まれる』

 ITは投資効果が見えにくく、とりあえず現有システムや人手を使ってしのぐことができる。よっぽど儲かっていないとIT投資にカネを回さないというのが経営者のスタンスではないだろうか。つまりIT経営を重視するところほど儲かっているように見えるのである。

 次の文章も確かに正しい意見だとは思うのだが、

 『中小企業がIT活用のメリットを享受するためには、ハードウェアやソフトウェアを導入するだけでなく、自社の業務領域間の連携や社外のシステムとの連携をした情報システムの構築に取り組むことが必要である』

 まったくその通りなのだが、いわゆるSCMを構築しようと考えても、中小企業には体力もないし人材もいない、ましてや社外の面倒などとても無理というのが現状である。これこそ国の支援スキームとか専門家の育成が必要であろう。

 次にIT活用の効果についてだ。

 『情報システムを導入する際には、従来の業務プロセスの見直しを始めとしたIT活用の効果を得るための取り組みを行うことが必要であることが分かる』

 これも全くその通りで、ソリューションプロバイダを名乗る人たちはシステムを売り逃げしないで、業務プロセス改善や組織改革まで支援して欲しいものである。それが難しければ専門家を雇いましょう。

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