中堅中小企業の経営基盤改革術

ここで差がつく――人材管理におけるICT戦略人事戦略コンサルタントの提言(1/5 ページ)

ベリングポイントの組織・人事戦略コンサルタントが、日本の中堅中小企業を取り巻く事業環境を踏まえアドバイスを提供する。第4回目は中堅中小企業のICT戦略について提言する。

» 2008年07月31日 12時57分 公開
[野石龍平(ベリングポイント),ITmedia]

 「中堅中小企業のタレントマネジメント戦略」と題して、米大手コンサルティングファーム、ベリングポイントの組織・人事戦略コンサルタントが、日本の中堅中小企業を取り巻く事業環境や人材マネジメントの潮流を踏まえ、戦略からIT活用に至るまでさまざまな観点から具体的なアドバイスを提供する。今回は、その第4回目。中堅中小企業のICT戦略について提言する。

第4回 ここで差がつく!中堅中小企業の人材マネジメントにおけるICT戦略

 ICT(Information and Communication Technology)は、これまでビジネス界で頻繁に用いられてきたIT(Information Technology:情報通信に関する技術の総称)に代わる表現として日本で定着しつつある。ICTは、ITの「情報技術」という側面に加えて、「人と人とのコミュニケーション=共同性」が強調されている。ここ数年でITが「人と人のコミュニケーション」を中心とした人材マネジメントの領域にシフトしてきたことを物語っている。

 連載4回目の今回は、中堅中小企業の人材マネジメントにおけるICT戦略と題して、人材マネジメントにおけるICTの潮流や他社と差がつく活用方法を考える。また、これまでの連載でエンプロイー・エンゲージメントを高める戦略(トータル・リワード)の必要性を再三述べてきたが、今回はあまり触れてこなかった「職場環境」「人間関係」「成長」について述べていきたい。

<図1 エンプロイー・エンゲージメントと本稿の対象範囲>

ICTは中小企業の漢方薬?

 ICTの活用が中堅中小企業の業績に良い影響を与えることはさまざまな調査で言われている。中小企業庁が発表した「中小企業白書 2008年度版」には、ICTを経営の重要課題として位置付け、活用に取り組むことが中堅中小企業の業績に良い影響を与えるとの記述がある。

 では実際に、中堅中小企業でどのような効果がでているのだろうか。経済産業省の平成18年情報処理実態調査では、業績向上やそれにつながる顧客開拓、顧客満足度向上という外部的な効果よりも、業務効率改善、スキルや情報活用効率の改善という内部的な効果の方が大きいという結果が出た。中小企業におけるICT導入の効果は、即効性よりも体質改善による漢方薬的な効果ということだ。

<図2 中堅中小企業におけるICT投資による効果>

在宅や出張先、顧客先がオフィスとなるような環境を用意

 第1回に述べたように、有能人材の採用とその定着化は中堅中小企業にとって大きな課題だ。女性、高齢者、育児者、介護者、派遣社員など多様な人材を取り込み、活躍できる職場環境が求められる。ビジネススピードが中堅中小の売りであり、そこに惹かれて大企業から転身を図る人材も多い。それを促進するような職場環境も重要となってくる。

 多様な人材を取り込むためには、多様な働き方ができる環境を用意する必要がある。それにはICTが有効だ。コンセプトの1つが「どこでもオフィス(ヴァーチャル・オフィス)」である。いつでも、どこからでも必要な情報にアクセスでき、必要な人とコミュニケーションできる環境を用意することで、時間や空間の制約が少なくなり、働き方の柔軟性が高まる。

 中堅中小企業で職場環境の改善に活用されているICTの代表例はグループウェアである。ブラウザさえあれば、どのような場所でも電子メールやスケジュールを共有できる仕組みを提供することで、多様な働き方ができる職場環境を作り上げている。

 リアルタイムで資料や動画を共有しながらネット上でミーティングをする仕組みを導入する企業もある。例えば、オフィスが点在するような中堅中小企業において、これまで各地から集合して実施していた会議を、ネット上で実施したり、出張先からノートPCで参加可能にしたりといった活用だ。

 こうした仕組みを構築する際の留意点の1つは情報セキュリティである。パスワードが漏れることでネットワークに不正にアクセスされ情報を悪用されたり、PCを紛失して情報が漏えいしたりといったリスクを考慮するべきである。PCへのログインやネットワークへのアクセス時に指紋認証を活用したり、外部からの不正アクセスを制限するためにインターネット上での仮想専用線(VPN: Virtual Private Network)のサービスを活用したりといった対策を講じる中堅中小企業は多い。

 IT専門調査会社 IDC Japan が2008年2月に国内中堅中小企業ユーザーに実施したセキュリティ/コンプライアンス分野のユーザー動向調査によると、2008年度の情報セキュリティ関連のIT投資予算では、約30%が「増加」させるという回答で、「横ばい」を含めると約90%となり、引き続き投資に積極的である。投資対象としては、ウイルス対策やスパムメール対策、ファイアウォール/VPNなどの利用が比較的進んでおり、特にウイルス対策は中堅中小企業の約70%以上で導入されている。

 また最近の動向としてはヤフー、楽天を代表とするといったインターネットモール運営企業が、自社のモールの出店者の中堅中小企業に対してセキュリティ/コンプライアンスソリューションを提供しており、有力なサービス提供者となりつつある。中堅中小企業はこのようなソリューションの活用も視野に社内のセキュリティの仕組みを見直すのも良いだろう。

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