中堅中小企業の経営基盤改革術

理念なき企業は滅ぶ――中堅中小企業の組織活性化人事戦略コンサルタントの提言(5)(1/2 ページ)

組織・人事戦略コンサルタントが、人材マネジメントの潮流を踏まえ、戦略からIT活用に至るまでアドバイスする。第5回は企業理念による中堅中小企業の組織活性化について提言する。

» 2008年08月18日 15時00分 公開
[三城雄児(ベリングポイント),ITmedia]

 「中堅中小企業のタレントマネジメント戦略」と題して、米大手コンサルティングファーム、ベリングポイントの組織・人事戦略コンサルタントが、日本の中堅中小企業を取り巻く事業環境や人材マネジメントの潮流を踏まえ、戦略からIT活用に至るまでさまざまな観点から具体的なアドバイスを提供する。第5回は企業理念による中堅中小企業の組織活性化について提言する。

企業理念で有能社員を魅了せよ

 中堅中小企業が有能な人材を惹きつけ続けるためには、評価や報酬の妥当性だけではなく、「組織への共感」を高く保持してもらうことが重要だ。そのためには、組織として大切にしたい価値基準を広く従業員に明示し、共感してもらうことが必要である。

【図1】エンゲージメントを生み出すもの

 企業経営における基本的な価値観・精神・信念あるいは行動基準を表明したものが「企業理念」である。組織への共感を得ていくために企業理念は大きな役割を担う。しかし、企業理念に類する言葉は多数存在する。企業理念・社是・社訓・フィロソフィー・行動規範・バリュー・○○ウェイ……などなど、定義や使い方も企業によって異なる。ベリングポイントでは、便宜上、企業理念に関する用語を、図表2のように3種類に定義し、クライアントに提言している。

【図2】理念に関する用語と定義

 3種類に分類したうち、下段のバリューについては、従業員向けに明示されたメッセージであるという点で、上中段のミッションおよびビジョンとは異なる。最近はバリューを従業員向けのメッセージとして、あえて切り出すことで、組織の価値観を従業員に明確に伝えるケースをよく見る。○○ウェイを新たにつくる動きも多いが、これも同様である。

 上記にあげた概念や用語の使い方は、極端に言えば何でもいい。重要なことは、明示された理念にどれだけ従業員が共感していて、実際の行動を伴っているかである。次の7つの留意点を意識して、ミッションやバリューを明示してほしい。

ミッションやバリューを明示する際の留意点

1. 簡潔で分かりやすいこと

2. ステイクホルダーが共感できること

3. オリジナリティーがあること

4. 具体的な行動の統制ではなく、考え方を統制するものであること

5. 人材マネジメント(採用・教育・配置・評価など)で利用し浸透させること

6. 繰り返し、徹底的に伝達すること

7. (新たに作成する際は)できるだけ多くの従業員を参画させること

 ミッションやバリューというのは、従業員の一挙手一投足を管理するのではなく、あくまでも大切にしたい考え方(価値観)を示すものである。一人ひとりの従業員の自律的な行動を細かく規定するものであってはならない。また、さまざまなチャネル(媒体)を使って、経営者をはじめさまざまな人物が同じメッセージを繰り返し、ストーリー(具体的なエピソード)を交えながら語ることが必要である。

社員を巻き込んだ企業理念の構築プロジェクトの進め方

 今回は企業理念を構築するプロジェクトについて、事例を交えながら紹介したい。前述したとおり、新たに企業理念を作成する際には、できるだけ多くの従業員を参画させることが重要である。企業理念の構築プロジェクトは、単に文章化する作業ではなく、一人ひとりの従業員の本音を引き出しつつ、組織と個人のエンゲージメントを実現する意識改革のプロジェクトでもあるのだ。一般に、企業理念の構築プロジェクトは次のようなステップで検討を進める。

  • ステップ1. 検討メンバーの組成
  • ステップ2. インタビューやアンケートによる現状把握(AS IS分析)
  • ステップ3. 組織のありたい姿の明示(TO BEモデル構想)
  • ステップ4. 理念の文章化
  • ステップ5. 社内外への発表

 検討を進めるに当たってのポイントは次の2点ある。

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