ベンダーが組織改革を担うには――ITとOAの違いIT Oasis(1/2 ページ)

単なる業務改善はOAと呼ぶべき部類に入るものである。ITを標榜するからには業務プロセスの改善にとどまらず、情報伝達や意思決定の仕組みに関わる組織改革や業務の変革を伴うべきである。これは会社の構造や構成を変えることであるから、ボトムアップ的なアプローチではなく、トップダウンの戦略に基づく必要がある。

» 2008年09月09日 08時28分 公開
[齋藤順一,ITmedia]

中小企業は組織が主体

 以前、首都圏の独立系の中小ITベンダーに中小企業向けのITソリューションを請け負うかどうかアンケートを取ったことがある。実績があり請負可能と答えた企業は全体の半分以上あった。しかし、現実にはベンダーが要件定義以前の上流工程から関わることには困難がつきまとっているようである。

 大企業のIT投資案件に比べて中小企業はどこが難しいのだろうか。

 ベンダーから見れば大企業に比べて投資額が少なく魅力に乏しい。中小企業ではIT投資が毎年継続的に行われるわけではなく、営業効率が悪いといった理由もあるだろう。

 大企業とは従業員数の多い企業のことである。人間の情報処理能力には限界があるので、人数が多くなれば、分業の数は増え、階層も深くなる。組織をまとめていくための情報量は増加するので、人の力だけでコントロールすることは困難となり、情報伝達や意思決定のルールを定め、システム化し、プロセス主体で運営していくしかない。人材もシステムやプロセス主体の組織になじむような一定の能力を持った人たちが必要となる。つまり、大企業ではプロセス主体で動かし、組織もシステム化しないと経営が難しいのである。家族経営などを志向するのは困難と言えよう。

 こうした情報流が豊富で、定型的な業務の多い環境にはITは入りやすいのである。ITによる支援を前提として組織や業務プロセスが構築されていると言い換えることもできる。

 では中小企業はどうか。

 中小企業は従業員の数が少ない企業である。人数が少ない組織では人間同士のコミュニケーションを使って情報伝達することができる。人間系主体の組織は融通が利き、非定型業務に対応できる。実は日本の中小企業の競争力の源泉はここにある。小回りが利き、得意先からの要望に柔軟に応えられるというのが中小企業の存在価値の1つである。

 中小企業では組織が小さく流れる情報量の絶対量が少ない。システマチックに業務プロセスを流すのではなく、変更、例外や異常処理をコミュニケーションによって解決しながら業務を進めていく。構造的にIT導入のハードルが高いのである。

ベンダーは上流を担えるか

 会社の構造はいろいろな定義が可能であるが、戦略、プロセス、組織、資産で構成されていると定義してみる。このうち情報伝達が大きく関わるのは戦略、プロセスと組織である。これらは独立したものではない。戦略は組織に伝わり、組織を動かす。業務プロセスは自動的に行われるものではなく、要所で人間の意思が介入する。意思決定の結果は戦略にフィードバックされる。組織内ではヨコのつながりで情報交換が行われる。

 業務パッケージ、ERP、SFA、グループウェア、EDIなど、通常ITシステムと称される製品は業務プロセスの改善を狙ったものである。しかし、企業が必要とするのは戦略、プロセス、組織間での情報の流れを円滑、効率よくすることであり、システム導入はその手段にすぎない。ベンダーの要件定義の様子を見ていると業務プロセスをヒアリングし、入力と出力を調べ、その部分をシステムで置き換えるような提案をする例が目立つ。

 しかしそれは間違いである。

 単なる業務改善はOAと呼ぶべき部類に入るものである。

 ITを標榜するからには業務プロセスの改善にとどまらず、情報伝達や意思決定の仕組みに関わる組織改革や業務の変革を伴うべきである。これは会社の構造や構成を変えることであるから、ボトムアップ的なアプローチではなく、トップダウンの戦略に基づく必要がある。

 つまり、組織改革に切り込めなければITは成立しない。

 ベンダーがここに切り込めるかとなるとなかなか難しいと思われる。ベンダーのビジネスモデルは自社の提供するITサービスを顧客の満足を得つつ、できるだけ収益の高い形で提供しようということになろう。発注者もその点は承知しているので、ベンダーが組織改革提案を持ち出したとしても、それは高いシステムを売るための方便でないかと疑念を持つ可能性がある。ベンダーは上流における戦略提案がシステム提案と分離されたものであることを説明する必要が生じる。

 ベンダー内部の対応も必要なる。上流を扱う独立した組織が必要になる。顧客の価値を高めるための戦略を顧客とともに考え、適切な選択肢を提示する専門家は従来の情報処理技術者とは異なるものであり、顧客の業務や組織にも精通し、戦略提案ができなければならない。こうした人材を育成する必要がある。

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