Google Chromeはビジネスシーンで利用されるかすでに速度では抜かれた?

IE8 Beta 2への関心を一気に奪ってしまったGoogle Chrome。ブログなどではその速さを称えるコメントを多く目にするが、すでにChromeを越える速度をウリにするブラウザも登場した。企業が標準ブラウザとして採用するにはどのような条件があるだろうか?

» 2008年09月22日 08時00分 公開
[谷川耕一,ITmedia]

“Beta”表記が外れなければ、企業は採用しない

 JavaScriptの処理が圧倒的に速いということで、ユーザー間の話題をさらうGoogle Chrome(以下、Chrome)。好き嫌いはあるようだが、わたしの印象では、そのユニークなインタフェースも悪くないと感じる。

 これらの優位性があれば、圧倒的なシェアを誇るInternet Explorerの牙城を崩すことができるのだろうか。普及のカギとしては、企業がこの新しいWebブラウザ製品を、社内標準ツールとして正式に採用するかどうかがある。

 現時点で、企業がChromeを採用する最大の障壁は、この製品がまだβバージョンであることだ。数年前であれば、高性能で便利な製品が新たに登場し、それが無償で利用できるとなれば、ビジネスの現場であろうと個人の判断でダウンロードしすぐに利用できた。だが最近は、企業においては極めて厳密なITガバナンスが求められている。たとえフリーの製品でライセンス上何らその利用に問題がなかったとしても、会社から貸与されているPCに勝手に何らかのソフトウェアをインストールし利用することは禁止されていることが多い。

 情報システム部門では、全社員が利用しているPCにはどんなソフトウェアがインストールされていて、ライセンスの有無やセキュリティパッチの適用状況などをきちんと管理し、企業全体でITリソースが適切に運用されていることを証明しなければならない。さらにIT全般統制に向けた要件に早急に対応することが求められている。このような状況下では、FirefoxやInternet Explorerなど現時点で問題なく稼働しているWebブラウザがあるのに、“Beta”という不確かな存在の製品を標準ツールに加える利点は見つからない。

 さらに、Webブラウザは今や“邪悪”なインターネットという世界との接点となる製品だ。どういう基準でセキュリティパッチが提供されるのか、またセキュリティホール情報の提供のタイミングはどうなるのかなども企業の標準ツールになるためには重要な要素だ。これらが安定した運用サイクルに入るまで、情報システム部門にとって「Chromeはリスキー」と判断される。まずはChromeのバージョンから"Beta"という文字が消え去り、その後しばらく時間が経過しセキュリティ上大きな問題が発生しないことが確認できなければ、企業が標準Webブラウザに指定することはないはずだ。

JavaScriptの処理が早いだけでは、企業は採用しない

 Chromeの最大のセールスポイントは、JavaScriptの処理が高速ということ。確かにこの処理性能はユーザーにとっては快適だ。最近のリッチインタフェースを実装したWeb2.0ベースのアプリケーションで利用してみると、ストレスが少ないことが実感できる。

 とはいえ、人間は慣れる。しばらくはその速さを快適に感じるが、やがて当たり前のこととなり、その恩恵を気にかける人もいなくなるだろう。そして、他社のWebブラウザも速度という意味ではChromeを追い上げてくるに違いない。実際、Lunascapeからは9月16日にLunascape 5.0αの提供が開始され、わずかな差ではあるようだが、 ChromeよりもJavaScriptの処理は高速だという。

世界最速をうたうLunascape 世界最速をうたうLunascape(製品サイトより)

 Webブラウザの多くは、エンジン部分にオープンソースのモジュールを採用している。そのため、ある程度の時間が経過すれば、性能面ではどの製品も“似たり寄ったり”なものとなる。処理の速さだけでは、長い間大きなアドバンテージを確保するのは難しいのだ。

 速さは企業での採用の優位性にならないとなると、いったい何が必要なのだろうか?

 1つ考えられるのはマイクロソフト以外の、セールスフォース・ドットコムやオラクルといったエンタープライズ向けのアプリケーションを提供するベンダーが、Chromeにお墨付きを与えることだ。彼らが自社のサービスのクライアント環境として積極的にChromeを推せば、企業での標準Webブラウザ指定の状況が、大きく変化する可能性もある。“対マイクロソフト”を掲げるベンダーも多いことから、政治的には大いに考え得ることだろう。

Chromeの普及は携帯端末から?

 もう1つ企業での採用が加速する可能性が考えられるのが、携帯端末のWebブラウザとしてChromeがどのようなシェアを獲得するかということがある。今後、GoogleのAndroid搭載の携帯電話が、各端末ベンダーから提供されるようになる。その際には、WebブラウザとしてChromeが採用されることになるだろう。携帯電話でも、後から好みのWebブラウザを追加インストールできるかもしれないが、標準で搭載されているものがそのまま使われる確率は、PC環境よりはるかに高い。そうなれば、PCではなく携帯電話でChromeがブレークする可能性も出てくる。

 携帯電話が、今後ビジネスシーンの利用で急激に拡大することは間違いない。この世界では、まだ本命のWebブラウザ存在しない状況なので、Chromeには大きなチャンスがあるだろう。「PCがChromeだから携帯もChromeにする」のではなく、「携帯がChromeだからPCでもChromeを使おうかな」という状況が、数年後には当たり前になるかもしれない。

谷川 耕一

ブレインハーツ代表取締役。AI、エキスパートシステムがはやっていたころ、開発エンジニアに。その後雑誌の編集者を経て、外資系ソフトウェアベンダーの製品マーケティング、広告、広報担当者などを経験。現在は、オープンシステム開発をおもなターゲットにしたソフトハウスの経営とライター仕事の二足のわらじを履いている。学生時代には環境保護や自然保護を学んでいたこともあり、人に、地球に優しいITとは、について考えている。ブログ→むささびの視線


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