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「売れていない」ことは問題ではない戦略プロフェッショナルの心得(6)(2/2 ページ)

» 2008年09月29日 15時50分 公開
[永井孝尚,ITmedia]
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問題の根本原因

 ターゲット顧客の定義が、セールス部門とマーケティング部門の間で異なり、両者は全くバラバラに活動していた。具体的には、マーケティング部門は大企業向けにキャンペーンを行う一方で、セールス部門は中堅製造業の顧客に対して営業活動を行っており、全く連携していなかった。

 このため、マーケティング部門のキャンペーンにより興味を持った見込み客が得られても契約締結までフォローできず、一方でセールス部門は中堅製造業の顧客を1件ずつ片っ端から訪問して製品説明を行うという非常に効率の悪いアプローチを行っていた。見込み客を見つけてフォローして契約につなげるプロセスが回っていない結果、全社で売り上げがなかなか上がらなかった。

 このように問題の根本原因を特定できれば、対応策を立案することができます。

対応策

 最初に、セールス部門とマーケティング部門が一緒になって市場の状況を把握し、バリュープロポジションに基いて、ターゲットとすべき顧客の定義を行い、合意する。マーケティング部門主導でキャンペーンを行い、興味を持った見込み客が実際に購入する可能性があるかを電話によるテレマーケティングで検証し、購入する確度が高い見込み客を営業資料を持ってセールスが訪問し、契約までフォローする、という一連のプロセスを構築する。さらに、定期的にこのプロセスの進捗状況を共有しあうことを両者で合意する。

 その上で、共通のターゲット顧客に対してキャンペーンとセールス活動を連動させて実施する。分かりやすくするために単純化した例です。実際の状況はこのように単純ではなく、複数の要因がお互いに複雑に絡み合っていますが、例えばこのように、問題の根本原因の特定は、具体的に対応策を策定できるレベルまで落とすことが必要です。

 「問題分析の際には“なぜ”を5回繰り返しなさい」とよくいわれるのは、多くの場合、問題の根本原因の特定が不十分だからです。この例のように、課題を生んでいる問題の根本原因が特定できれば対応策は定義可能ですが、問題の根本原因特定の際に気を付けたいことがあります。それは、問題の根本原因と「言い訳」を分けることです。

 一見すると問題の根本原因と「言い訳」は似ていて、見分けが付けにくいものですが大きな違いが1つあります。問題の根本原因は問題の発生源であり、これを取り除くことで、問題そのものが解決し改善が見込めます。言い訳は問題の発生源ではなく、これを取り除いても問題は解決しません。あるいは、初めから取り除けない要因だったりします。

 次の例はどちらでしょうか。

 「ウチの商品は、成熟市場向けなので、売り上げが伸びない」

 これは問題の根本原因ではなく、言い訳の典型です。なぜなら、成熟市場向けの商品であると分かっただけでは、売り上げが伸びない問題を解決できないからです。また、「市場が成熟している」という状況を変えることは容易ではありません。成熟市場を成長市場に変えるのは、不可能とは言い切ることはできませんが、現実的ではありません。

 一方で、成熟市場の中でも成長している企業が、多くの業界で存在しています。「成熟市場向けの商品である」ということは「問題の根本原因」ではないのです。

そして、売り上げが伸びない理由は、別のところに潜んでいるのです。わたしたちは「言い訳」の罠に陥ることなく、根本原因の特定に集中し、それを取り除くことで問題を解決していきたいものです。

(注)本書に掲載された内容は筆者である永井孝尚個人の見解であり、必ずしも筆者の勤務先であるIBMの立場、戦略、意見を代表するものではありません。

著者プロフィール:永井孝尚(ながいたかひさ)

永井孝尚

日本アイ・ビー・エム株式会社ソフトウェア事業部にて、マーケティングマネージャーとして、ソフトウェア事業戦略を担当。グローバル企業の中で、グローバル統合の強みを生かしつつ、いかに日本に根ざしたマーケティング戦略を立てて実践するのか、格闘する日々を送っている。アイティメディア「オルタナティブブログ」の「永井孝尚のMM21」で、企業におけるマーケティング、ビジネススキル、グローバルコミュニケーション、及び個人のライフワークについて執筆中。


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