米国発世界金融危機とノーベル賞伴大作の「木漏れ日」(2/4 ページ)

» 2008年10月14日 12時50分 公開
[伴 大作(ITCジャーナリスト),ITmedia]

ノーベル賞

 ノーベル物理学賞を受賞した小林誠理学博士(高エネルギー加速器研究機構名誉教授)と益川敏英理学博士(京都大学名誉教授)、化学賞を受賞した下村脩理学博士(ボストン大学名誉教授)の3人については、さまざまに報じられているのでここでは詳しくは述べないが、南部陽一郎博士(シカゴ大学エンリコフェルミ研究所名誉教授)は、ノーベル財団の区分けでは米国として国別に分類されていることだけを記す。

 1945年以降、ノーベル賞の受賞者の数は米国が272人と最も多く、次いでドイツ、英国、フランスなどが多い。日本はわずか15人だが、アジアでは最も多い。米国の272人の内訳を見ると、もちろんほとんどは米国出身者だが、それ以外の海外出身者も67人と結構多い。最も多いのはドイツで12人、次いでカナダの7人、イタリアの6人が続く。

 チェコやハンガリー、ポーランドなど東欧や、インド、パキスタン、台湾などアジアの出身者も少なくない(この中には米国籍を取得した南部博士も含まれている)。初期は、ドイツやスイス、オーストリアのような欧州出身者が多かったが、次第にインドやパキスタン、メキシコなどの開発途上国出身者が増加した。

 これは第2次世界大戦後に欧州から脱出した人たちが多かったことを反映している。次第に政情が安定するにしたがって、東欧諸国から、次いでアジアやアフリカ出身者が高等教育を米国で受けたことにより、その業績が認められ、そのまま国籍を取得、ノーベル賞受賞へとつながったと考えられる。

 日本でも、ノーベル賞に代表される国際的な賞の受賞者を増やそうと動いている。しかしながら、現実は厳しく、優秀な日本人研究者、特に物理や数学、医学の研究者が米国へと流出する動きに歯止めがかかっていない。

 また、ほかの国から研究者を受け入れる方でも、外国籍の人たちを教員に迎える規則改正は遅々として進んでいないのが実情だ。もちろん、これは単なる給与などの待遇面での改正に過ぎない。このほかに、外国の学者を客員教授として招聘したり、同行する家族が安心して生活する環境整備に関しても全く手付かずの状態だ。

 確かに、この数年、日本政府はノーベル賞受賞者の意見を聞き、先進的な研究には補助金を集中させる傾向を強め、いわゆる巨大科学(ビッグサイエンス)に関してはずいぶんと投資額を増やしている。だが、肝心の研究者に対する直接の補助金はそれほど増加していない。

 むしろ、国立大学を行政法人化し、独立採算へ持っていこうとしているため、予算そのものは減少しているように見える。

 産官学連係を標榜しているが、一方の産業界も国際的な競争を意識し、日本の研究所への予算増加は最低限に抑え、ほかの海外拠点への投資を優先しているのが実情だ。これでは学術の世界も空洞化しかねない。

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