コラム
» 2008年10月30日 15時05分 UPDATE

IT Oasis:工場閉鎖――幕引き前夜の宴で見えたこと

組織活性化の必須アイテムは「情報」である。現場の主体的な改善を引き出すには、表面上からは見えてこない状況を認識させる「情報」を伝えていくしかない。

[齋藤順一,ITmedia]

コストダウンが追いつかない

 米国第3代大統領のトーマス・ジェファーソンは政治参加の条件として、「よく知らされていること」を挙げた。「うちの従業員は自分のことしか考えない」と嘆いている社長さんに聞かせたい言葉である。また組織デザインの大家であるJ.R.ガルブレイスは組織を決定づける要因として課業や人間、インセンティブのほかに情報を挙げている。

 従業員のやる気を引き出すためには「よく知らされていること」が必要なのだ。

 私が関わった会社の工場が閉鎖されることになった。受注が先細りで、先行き回復が見込めず、このまま放置すれば傷口が深くなって、より深刻になるという判断からだ。そこに至るまでに、幹部はいろいろな策を施した。コストダウンも真剣にやった。3年で20%のコストダウン計画を立てて精力的に遂行した。ところが2年目で営業から今のままでは戦えない、もう20%下げて欲しいという要請が来た。

 実際、海外他社に次々と受注がさらわれている状況であった。更に20%下げる目標に変え頑張っていると、またまた営業から、もう20%と言われた。20%も3回掛け算をすると半値以下になる。製品は当初と全く違う外観となり、材料、製法も根本的に改善された。松下幸之助氏は「2割の原価低減は大変だが、5割の原価低減は割と簡単にできる」と言ったそうだが、まさにその通りであった。

 それほどの血のにじむような努力を続けたが、やはり立ち直ることにはならなかった。

 いよいよ翌朝、全従業員にその事を伝えることになったその晩、近所の居酒屋では従業員達がいつものように楽しそうに歌い、酒盛りをしていた。

 彼らはただのん気なのではないし、やる気がないわけでもない。情報が伝わっていないのである。

 現場にしてみれば、定常的に製品を作れという指示書が流れ、工場の中を見渡せば仕掛品がたくさん転がっている。プロセスが止まり、工場を閉鎖する兆候などどこにもない。

 プロセスの中で上流から流れてきた製品を自工程で付加価値を付け、次工程に流す。正確に、マニュアル通りに作業するよう教育された従業員は余計な事を考えずに自分の作業に集中する。

 工場がどういう状況にあるかを把握し、どうあるべきかを、何をすべきかを考えるのは経営者の仕事だ。しかし、それに関連した情報を従業員に与えなければ、現場が変っていくことはない。情報を提供しないで、「自分たちのことしか考えていない」と断じても、何も好転することはない。

従業員はタコツボが好きなのか

 企業に呼ばれてIT戦略立案のお手伝いをするときには、現場の従業員の方から現在困っていることや、こうしたらいいと思うといった意見を聞くことにしている。

 従業員からは次々に意見が出てくるし、アイデアの提供もある。パートからも意見が出る。相手がITだと何でもできると思っている人も多いから、途方もない要求が出ることもあるが、そこまでよく考えていましたねと感心するような話が多い。

 従業員は会社を良くすることが自分たちの雇用を守り、生活を豊かにする事につながるということを認識しているのである。日々の作業に集中していても、タコツボの中に入り込むように、周囲の環境の変化を無視して仕事をしていればいいと思っているわけではない。

 しかし、現実の課業で改善提案や活動が自発的に行われることは少ない。

 経営者と従業員が一体となって目標を共有し、ベクトルを合わせて進むことはなかなかできない。それはなぜか。情報が与えられていないからである。

「押し込み」型から「引っ張り」型へ

 ある製造系中小企業で生産管理システムを導入した。その会社はフローショップ型で7工程ほどの生産ラインが工場内に何本か走っている。生産管理というのは極めて幅広い。よく行われるのは得意先EDI連携、材料集計、在庫管理、資材発注、外注手配、生産指示など生産上流側のシステム化である。

 それらも必要なものについては実行したが、私が力を入れたのは「現場の見える化」である。各工程でロットの工程出を記録し、仕掛進捗状況を把握できるようにした。併せて、各工程で発生する不良数と原因も記録するようにした。これによって、各工場、各ライン、各工程で現在、仕掛品がどのように流れているか、生産途中で不良がどの程度発生しているか可視化できるようにした。

 この情報を現場に置いたPCで従業員が誰でも閲覧可能なようにしたのである。

 その結果どういうことが起こったか。

 今まで、担当者は前工程から送られてくる仕掛品を受け取ると、段取りをして加工をすることしかできなかった。つまり前工程から突然、自分の仕事が湧いてくるのである。そうした状況では送られてきた仕掛品を自工程に貯めないように、ひたすら処理して後工程に流すしか方策がなかった。

 それがある日から工場、ライン全体が見えるようになったのである。

 担当者は前の工程や更に前の工程でどの程度の製品が仕掛っているか把握できるので、自分の作業の計画も容易にできるようなった。前の工程で障害があって工程が進まないときは手伝いに行き、後の工程が手待ちになりそうなときは、後工程に早く渡せる品物を先に加工するといった全体を見通した作業ができるようになったのである。

 製品の流し方も変わった。

 今までは、上流からこれを作れといった形で下流工程に流していく、「押し込み」型の生産をしていたのが、下流工程から、この製品は16時のトラックに載せないと納期に間に合わないので、早く流して欲しいといった形で、「引っ張り」型の生産に移行していったのである。

 ここに現われたのは、必要なモノを必要な時に必要なだけ作るというジャストインタイム生産方式の萌芽である。情報共有こそ組織のコミュニケーションの要であり、組織は情報によって有機的に連携できるのである。

 情報なくして現場の改善は生まれない。

 情報は現場にとっての強力な武器であり、組織活性化の必須アイテムなのである。

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プロフィール

さいとう・じゅんいち 未来計画代表。NPO法人ITC横浜副理事長。ITコーディネータ、 CIO育成支援アドバイザー、上級システムアドミニストレータ、環境計量士、エネルギー管理士他。東京、横浜、川崎の産業振興財団IT支援専門家。ITコーディネータとして多数の中小企業、自治体のIT投資プロジェクトを一貫して支援。支援企業からIT経営百選、IT経営力大賞認定企業輩出。


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