“データ”の“ベース”を見据えるIBM(2/3 ページ)

» 2008年11月04日 07時00分 公開
[Brian Prince,eWEEK]
eWEEK

IBMとサービスとしてのソフトウェア

―― SaaS分野では、IBMにはどんなチャンスがあると思いますか。

ミルズ これについて、われわれはベンチャー・キャピタル・コミュニティーや一部の有名企業がサービスとしてのソフトウェアという表現で定義しているSaaSよりも少し広い意味で捉えています。

 より広い意味で定義すれば、SaaSはビジネスプロセスのアウトソーシングにほかなりません。このビジネスを手掛けている企業は非常に数多く存在します。実際、この分野ではベンチャーファンドが出資しているSaaS企業よりも、伝統的と言われて企業の方がはるかに大規模に事業を展開しています。

 例えば、たいていの銀行は、何らかの形のオンラインサービスを手掛けています。こういったサービスはコンシューマーを対象としたものだけではなく、企業間ベースでも提供されています。特に、中小企業の財務管理を支援するためのサービスです。

 ADP(Automatic Data Processing)のような企業は何十年も前から、そういったビジネスを行っています。American Expressもこのビジネスを手掛けています。UPSとFederal Expressもそうです。両社のサービスは、顧客の在庫管理サプライチェーンのプロセス改革を促すものです。彼らは単に顧客のパッケージを輸送するだけにとどまらず、顧客のビジネスプロセスに深く関与したいと考えているのです。そして彼らの価値提案の一環として、自社のコンピューティングシステムを使って顧客の環境を効果的に管理するのを支援しようとしています。

 これは、Salesforce.comが自社のコンピューティングシステムを使い、顧客が遠隔地の販売スタッフを効果的に管理するのを支援するのと何ら変わりません。考え方は同じです。

 これをIBMの視点から見た場合、われわれは複数の角度からこの分野に参加しています。当然ながら、こういったサービスを提供している企業はすべて、ハードウェアとソフトウェアを必要とします。ですから、われわれは彼らにハードウェアとソフトウェアを供給しているのです。彼らは拡張性と信頼性を必要とします。24時間無休でサービスを提供する環境のニーズを満たす強力な技術も必要としています。それはわれわれの設計思想と非常に良くマッチするものです。

 われわれは、こういったプラットフォームサービスの一部を実際に提供するという形で、この市場に参加しています。われわれの管理型ビジネスプロセスサービス構想は、IBMが実際に一部のビジネスプロセスの改革、そして運用に関与するというものです。また、われわれのBluehouse構想では、プラットフォーム上でホストされるコラボレーション機能セットを、顧客がサービスとして効果的に利用することができます。これらの機能は、われわれのLotusポートフォリオの一部です。これらはいずれも、広い意味でのITサービスのプラットフォーム提供というビジネスにIBMが参加している例であり、これは一般的な定義でいえば、サービスとしてのソフトウェアです。これがわれわれの取り組みの1つです。

―― いずれデータは完全にクラウド内に置かれるようになると思いますか。それは避けられないことなのでしょうか。

ミルズ 個人のデータをすべてクラウド内に置くことは、理論的には可能ですが、自分のデータをそこに置いても十分に信頼でき、十分に安全だと考えるかどうかは、個人の判断の問題です。

 ほとんどの人々は一歩後ろに下がり、「ではクラウドの中に何を置こうか? わたしにとって何が本当に重要な情報なのだろうか?」と思うのではないでしょうか。

 趣味に関することや投稿記事などのデータであれば、ドキュメントがほかの場所にあり、ローカルコピーがなくても気にしないという人もいるでしょう。しかし、こういった人でも自分自身の医療記録や投資データについては、まったく異なる考え方をするかもしれません。結局は個人の判断ということになります。

 企業の場合も、同じような判断を迫られると思います。この情報を誰に託せば大丈夫だろうか? このデータに求められるコンプライアンス要件は何だろうか? 監査は、セキュリティは、プライバシーは? ――といったことです。企業は当然、機密を要する情報は大手プロバイダーに委託するでしょう。例えば、Hewitt AssociatesやFidelityなどは、人材管理と福利厚生関連のビジネスを手掛けていますが、こういったサービスを企業顧客に提供しているために、彼らは機密を要する個人データを保有しているのです。

 ちなみに、われわれも人材管理と福利厚生の業務の一部をさまざまな企業にアウトソースしています。このため、わたし自身の情報もIBM社内だけでなく、社外にも置かれています。ですが、わたしは全然心配していません。IBMは企業として、当社のサプライヤーが順守すべき基準を理解しており、われわれが選んだサプライヤーは、監査に耐え得ること、そしてプライバシーとセキュリティのコンプライアンスに対応することについて非常に真剣に考えているからです。

 例えば、ADPは30年以上にわたって個人の給与情報を管理するビジネスを手掛けています。セキュリティとプライバシーに関する彼らの実績は立派なものだと思います。わたしは、業務に関するものであれば、外部に託すことができないような情報はないと考えています。結局、ユーザーおよび企業バイヤーの判断、すなわちサードパーティーのサービスプロバイダーについてどう思うかということになるのです。

 セキュリティとプライバシーに関連した障害が小さくなってきたのは明らかです。企業各社がビジネスプラクティスの手法と構造の導入を進め、社外監査人による監査を積極的に受け入れようとしているからです。

 これとは反対の考え方も見受けられます。わたしの友人であるラリー・エリソン氏(OracleのCEO)は最近、クラウドといったアイデアそのものに対して批判的な見解を表明しています。

 しかし、もう少し広い意味で考えれば、これは1960年代にサービスビューローが登場して以来、存在していたコンセプトです。われわれは現在、ほかの用語を使っているのです。新鮮な響きを持たせるために用語は毎年のように変わりますが、サービスとしてのソフトウェアは、過去40年間のオンラインサービスプロバイダーモデルと何ら違いません。このモデルが進化して非常に高度になったのだと思います。

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