コラム
» 2009年01月04日 06時00分 UPDATE

日曜日の歴史探検:2010年、自律走行車は建機から

無人・完全自律走行は、普通乗用車ではなく、ダンプトラックなどの建機で先に実現されそうです。巨大な鉄のかたまりが無人で動く世界にわたしたちは何か異質なものを感じるかもしれません。

[前島梓,ITmedia]

 明けましておめでとうございます。今年最初の「日曜日の歴史探検」ですが、無人戦闘機「X-47B」に続き、地上の無人車両を取り上げてみたいと思います。

地上最大の車両が集う建機業界

 皆さんは、この世で最も大きな車両と言えば何を思い浮かべますか? 海上を移動する人造物であれば空母でしょうが、地上は戦車ではなく、多くの方はトラクターやダンプトラックを挙げるのではないでしょうか。日本国内ではほとんど見かけることはありませんが、鉱山などに代表される巨大な採掘現場では、ギネス級のダンプトラックが活躍しています。

797B Caterpillarの超大型ダンプトラックが「797B」。これ1台で5億円ほど

 ダンプトラックのメーカーにはどんな企業があるかを周りに聞くと、たいていの場合2つの企業しか上がってきません。それは、建機業界が2強で成り立っていることを意味しています。そんな2強の1社がCATのロゴマークでもおなじみのCaterpillarです。同社の誇る超大型ダンプトラックが797B。その馬力は3550馬力で、約345トンが最大積載量です。これ1台でボーイング747に相当するような荷物を運搬するのです。

 3550馬力という出力は地上を進むほかの乗り物を圧倒しています。乗用車であれば、慶應義塾大学を中心に開発が進められている8輪駆動の電気自動車「Eliica」が800馬力、スウェーデンのKoenigseggが誇るCCXR(1018ps)やShelby Super CarsのUltimate Aero(1180ps)など、速さと美しさを兼ね備えた車種が400キロ前後のスピードで疾走していますが、それらの3倍以上の出力を持つ797Bは、その出力を速さではなく重さに耐えることに用います。


960E.jpg コマツが誇る超大型ダンプトラック「960E」。

 建機業界のもう1つの雄が小松製作所(コマツ)です。同社は建機業界でCaterpillarと肩を並べる巨人であり、アジア圏でのシェアはCaterpillarを上回ります。当然、Caterpillarが797Bを開発すれば、3500馬力で最大積載量327トンの「960E」を発表するなど一歩も引きません。

 超大型の建機で求められてきたのは、長らく馬力と積載量でした。しかし、今後の状況もかんがみたCaterpillarは、従来の勝負のルールに新たなルールを加えようとしています。それが、無人車両に欠かせない自律性です。

Urban Challengeで証明された現代の自律走行技術

 2008年9月、カーネギーメロン大学から1つのリリースが出されました。そこには、「autonomous versions of large haul trucks」、つまり自律大型輸送トラックをCaterpillarと共同開発するとあります。自律型ということで、残念ながら搭乗して操作するタイプのロボットではないものの、797Bよりも大きな無人ガンタンクのようなダンプトラックが思いがけず2010年には誕生しそうな勢いです。

 新たなルールを相手に持ちかけるには、そこでの切り札がないといけません。切り札は自律性ですが、Caterpillarは、どのようにしてこのカードを手に入れたのでしょう。過去にさかのぼっていくと、2007年のUrban Challengeが1つの契機といえそうです。

 Urban Challengeは、DARPA(Defense Advanced Research Project Agency)が2004年ごろから進めていた研究プロジェクトから生まれたもので、自律式車両の研究開発が目的です。Urban Challenge以前には、砂漠地帯を舞台に無人・完全自律走行を目指す「Grand Challenge」が2度開催されています。2度目で同地帯における無人・完全自律走行を成し遂げるチームが出てきたことで、舞台を市街地(Urban)に移しました(実際には空軍基地内の市街地戦訓練施設)。これが2007年11月のことです。

boss.jpg Urban Challengeで優勝したカーネギーメロン大学の自律式車両「Boss」。車体にCATのロゴが見えますね。カメラとセンサーの固まりなのは、火星探査船と同じですね(画像出典:DARPA)

 砂漠地帯でのレースとは異なり、道路交通法やほかの車の動きなども考慮しなければならないなど、自律式車両にとってはまさに“実戦”です。ここで、並み居る強豪を抑えて優勝したのはカーネギーメロン大学。ロボット工学の権威、TWhittaker教授が率いるTartan Racingがこの戦いを制しました。このとき、Tartan RacingのスポンサーにはCaterpillarも名を連ねていました。

 DARPAはUrban Challenge以後のプログラム実施予定を明らかにしていませんが、Urban Challengeでは全11台中3台指定時間内にゴール、完走したのは6台であることからも無人・完全自律走行は十分に実用的であると判断しているようです。ビジネスの観点で考えると、仮に自立型の車両ができたとしても、そうした車両で事故が起こった場合の責任が企業に求められるリスクがあるため、自立型の乗用車ビジネスはまだ時期尚早でしょうが、Caterpillarはこれが建機業界を激震させるだろうとみており、カーネギーメロン大学とともに開発に取り組んでいるのです。

 Urban Challengeで優勝したカーネギーメロン大学の車は「Boss」と呼ばれていましたが、Bossの平均速度は時速20キロ程度であるといいます。2010年に登場するCaterpillarの自律型大型輸送トラックがどの程度この速度を実用的なものに近づけるかも注目ですが、それに対するコマツの動きからも目が離せません。同社もAHS(Autonomous Haulage System)と呼ばれる無人ダンプトラック運行システムのトライアルを世界各地の鉱山で行ってきています。2010年に向けた両社の動きが加速しそうです。

毎週日曜日は「日曜日の歴史探検」でお楽しみください


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