システムの全体最適というと、まずは関係各所の意見をまとめて…というスキームが基本のように思われるが、本当にそんな方法で全体最適は実現できるのだろうか。
ある専門誌に「各省庁の縦割りを崩し、霞が関で共有できる情報システムを作ることは幻想に過ぎない」と書かれていた。筆者も「行政のシステムコストは健全か?」で書かせていただいたが、似たような考えを持っている。
各省庁は組織文化も違うし仕事も異なる。関連する法律だって異なる。システムの共有化といっても、政府は省庁の上にある持株会社に過ぎず、民間でいえば持株会社傘下の巨大金融企業と巨大流通企業がシステムを共有することと同じだ。民間では、無理や無駄が多過ぎるとして業種ごとに整理した上で分社化し、それぞれの中で最適なシステムを作っているのだから真逆のように写る。なるほど「幻想」なのかもしれない。
筆者が長崎県庁に入った8年ほど前、個々の自治体が電子自治体の構築に向けシステム開発していたのでは時間と費用がかかりすぎるとして、政府は電子申請などの共同化とアウトソーシングの活用を推進していた。筆者も総論としては極めて納得できるので、研究会のような形で市町村と検討を進めてみたのだが、根本的な考えの違いではたと困ってしまった。例えばこんなことだ。
どうも、市町村は電子申請の必要性をまだ感じてはおらず、時期尚早と考えているようだ。また、総額を安く抑えることが個々の自治体の負担を減らす早道であるという議論より、負担割合の方が優先されるというのが基本的志向というか組織文化のようだ。さらには、「システムの構築に地場中小零細ITベンダーの活用を」などの議論は皆無といってよく、県内全自治体が参加するなら大手に頼むのが当然のような雰囲気さえあった。
運が良かったというべきか、当時は市町村合併が最優先課題であったので、共同化の話は消えない程度に続けるにとどめ、県庁は単独で電子申請をはじめとする電子自治体化を進めることになった。つまり、県内自治体すべてという全体最適をあきらめ、県庁のみという部分最適を選んだ。
幸いにも、このことにより、長崎県は電子県庁構築にオープンソースを積極的に活用するという独自の選択をすることができ、次のような利を得ることとなった。
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