ICタグで位置情報を把握し物流の安全を担保テロや海賊対策にも

開催中のRFIDソリューションEXPO(RIDEX)では、貴重、重要、繊細な品物の物流を管理するさまざまな取り組みが紹介されていた。

» 2009年05月15日 08時00分 公開
[岡田靖,ITmedia]

 RIDEXでは、RFIDを活用した各種ソリューションを中心に、さまざまな関連商品やサービスが出展されている。RFIDといえば、ICチップとアンテナで構成され、無線でデータをやり取りすることで対象となる商品などの管理を高度化する、というのが一般的だが、さらに高度な機能を持たせる取り組みも進んでいる。品物の位置情報や温度状況などをリアルタイムで通信し、安全・安心を確保しようというものだ。

インフラ投資不要のアクティブタグ

トレイルキャッチ トレイルキャッチ

 大日本印刷(DNP)ブースで目についたのは、「トレイルキャッチ」温度センサとPHS通信機能を電池とともにパッケージした端末(トレイルキャッチ本体)で、PHS網を利用して位置情報の把握を行い、温度や位置情報データをサーバに転送する仕組みだ。サーバもDNPが管理するASP方式となっており、専用サイトにアクセスすればタグごとの温度や位置情報をリアルタイムで把握できるほか、温度が設定値を超過した場合や、あらかじめセットされた時刻に目的地へ到達していない場合などはメールで通知する機能もある。端末内にデータを保持しており、PHSが圏外となっても温度記録は残る(ネットワーク接続が可能になった時点でサーバに転送される)。

 一般的に、ICタグを活用するにはインフラや読み取り装置、管理サーバなど関連設備の投資が必要になるものだが、トレイルキャッチではそれが不要だ。また、位置情報を活用して、よりリアルタイムな配送状況を把握できるようにした点が興味深い。ブースでの説明によれば、もともとは生鮮食料品の流通をターゲットとしていたとのことだが、食品よりさらに厳密な温度管理が必要な薬品類の流通業者で採用されているという。

“安全保障”への応用

MATTSのシステム構成 MATTSのシステム構成(クリックで拡大)

 双日ブースでは、トレイルキャッチをさらに大掛かりにしたようなシステムが紹介されていた。適用される荷姿は船舶用コンテナで、流通ルートは国際的なサプライチェーン、センサーは温度以外にも対応可能なようにカスタム可能、主に利用するネットワークは衛星携帯を含む携帯電話網、あるいは地上の有線インフラとなっている。

 このソリューションは「海上貨物追跡タグシステム」(MATTS)と呼ばれ、コンテナ外側に装着して用いる「iTAG」と、コンテナ内で各種センサーを接続して用いる「iCHIME」、WANへの接続を行うルータ「iGATE」、そして「iVIEW」サーバからなる。iTAG、iCHIME、iGATEは、IEEE802.15.4(いわゆるZigBeeの物理層)によって相互に通信を行う。iTAGはGPSと電池を内蔵、携帯電話網とIEEE802.15.4を用いた通信が可能で、コンテナ船に積載された状態では、下の方のコンテナがGPSや携帯電話網を利用できなくなるが、IEEE802.15.4を利用して近接したiTAGどうしが通信し合って情報を補完するという。

 MATTSの開発は、米国の国土安全保障省(DHS)の委託で米国iControl社が進めている。現在はDHSと日本の国土交通省、日米の複数企業が参加した日米共同のMATTS実証実験中という段階。なお、双日はiControl社に出資しており、日本でもiControl社製品の代理店として国交省へ協力している。

iTAG(写真=左)とiCHIME(写真=右)。どちらもクリックで拡大

重要な品物、繊細な品物の扱いを変える可能性

 DHSは2001年の米国同時多発テロ後に設立され、テロの危険がある物資が米国内に流入しないようにすべく活動している。MATTSの開発も、そのDHSの戦略の一環だという。もし、このようなシステムが米国全体で義務化されるとすれば、米国にとって安全保障上のメリットは大きい反面、荷主や流通業者、港湾管理者などの負担も無視できまい。今後の方向性が気になるところだ。

 ちなみに、第2回実証実験は工場から工場への部品輸送を想定した内容とのこと。

 例えば航空分野などでは、日本で製造された部品が太平洋を渡って運ばれ、米国の工場で組み立てるようなケースも増えている。こうした部品は、高度な技術を用いて作られているものが少なくない。輸送中に破損などが生じれば品質上の問題にもなる。高価な品物ゆえ余剰生産は控えられるが、損失があれば完成品の納期に影響するため、輸送トラブルがあれば早期に確認したいところでもある。もちろん、技術流出の懸念があるため紛失や盗難なども避けたいところだ。このような分野であれば、コスト次第だが国にも企業にも相応のメリットが期待できるだろう。

 それから、iTAGの派生形として展示されていた「mLOCK」も興味深い。GPSで位置情報を把握しており、移動経路を記録するだけでなく、あらかじめセットされたロケーションでのみ解錠するようにできる。また、予定されていた移動ルートを逸脱した場合には携帯電話網を通じてアラートを発信することも可能。さらに専用のリモートキーを用いれば、自動車のリモコンキーのように信号が届く範囲でのリモート解錠/施錠や、信号が途切れた際の自動施錠などが可能となっている。現金や貴重品、危険物などの安全な輸送に期待できそうだ。

 トレイルキャッチもMATTSも、一般的にいわれるICタグとは異なる技術を用いており、また現時点では利用範囲も限られると思われるが、既存の技術やインフラを活用してシステムを作り上げ、物流現場へ応用しようとしている点は興味深い。

iGATE(右)、mLOCK(左)、mLOCK用の電子キー(手前) iGATE(右)、mLOCK(左)、mLOCK用の電子キー(手前)

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