遠ざかるスパコン世界一の座伴大作の木漏れ日(1/4 ページ)

NECと理化学研究所次世代スーパーコンピュータ開発本部は、次世代スーパーコンピュータの共同開発体制について発表した。日本が次世代スパコンで世界一に返り咲くことは難しそうである。

» 2009年05月20日 15時30分 公開
[伴大作,ITmedia]

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 NECと独立行政法人理化学研究所次世代スーパーコンピュータ開発本部は5月14日、次世代スーパーコンピュータの共同開発体制について発表した。理化学研究所が2006年以来進めてきた10ペタFLOPSの演算性能を備える次世代スーパーコンピュータの開発で、設計製造段階から共にベクター演算部の開発を進めていたNECが撤退する。

 NECは電話取材に応じ、先日発表した2008年度の決算が当初の想定より悪かったこと、今後業績の早期回復が望めないことなどを撤退の理由に挙げた。理化学研究所が進めている次世代スーパーコンピュータ(スパコン)開発プロジェクトでは、当初の設計段階から製造段階に進む際に100億円以上の追加負担が発生するため、継続が困難と判断したという。

 商業ベースでのお付き合いではないので、採算が取れない、儲からないから離脱するというのが本音だろう。

 この問題は参加企業の自社の業績悪化が原因で、政府の科学技術プロジェクトから撤退するという単純な話ではない。おそらく、理化学研究所の次世代スパコン開発における基本構想の見直し、開発日程の再検討、ソフトウェアなど、すべてに絡んでくる大きな影響をもたらすに違いない。このプロジェクトを頼りに進められているさまざまな国家的な科学プロジェクトにも大きな影響を及ぼしかねない。

 今回の事態に至ったいきさつを検討すると、この問題には日本の科学技術行政に内在した構造的課題がついに行き詰まったこと、文部科学省の今後の科学行政を考えると鼎の軽重を問われる大事態だ。

 今回のコラムではこの問題を取り上げる。

当初から先行きを危ぶまれたプロジェクト

 このプロジェクトは地球シミュレータが完成し、日本がスパコンの世界最高速の冠を取ったことに端を発している。

 これに対し、米国の失墜した威信を回復するためと、当時、極端に弱体化したコンピュータベンダーを救う両方の目的でクリントン民主党政府が立てたさまざまな施策が功を奏し、IBMをはじめとしてCray、DECなどが取り組んだスカラー型クラスター超並列処理スパコンが地球シミュレータをしのぐLINPACK計算性能を達成した。

 結果として、米国はスパコン世界一の座を再び奪還した。一方、地球シミュレータで一度世界一の座を手にした日本政府は、再びスパコン処理速度世界一の座に返り咲いて世界のスパコン市場でリーダーシップを確保するために、理化学研究所を主体とする「次世代スーパーコンピュータ」構築プロジェクトに着手した。

 ただし、地球シミュレータで構築に主な役割を果たしたNEC一社にその仕事が託されたのではなく、日立、富士通を含めた日本の国産ベンダー総動員という形になった。

 確かに、世界的な潮流を見る限り、ベクター型というのは「時代遅れ」という謗りを受けてもしようがない。世界のスパコンのほとんどすべてはスカラー型に移行しているからだ。

 その点からもスカラー型を開発している企業を完全に無視するというのは問題だ。かといって、世界最高水準の計算性能を目指すスパコン構築に複数の企業が関わるというのも大きな問題を抱えかねない。高度で複雑なシステム構築を複数の企業に分散するという決定に関しては、当時でも多くの疑問の声が上がった。なぜこのような事態に至ったのだろう。

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