わが社のコスト削減

やはりツールの導入が不可欠――J-SOX 2年目の知恵わが社のコスト削減

J-SOX対応を効率的に行うために、初年度から積極的にITツールの導入を行った企業も多い。当初の文書化作業も重要だが、その後についてもやはり工夫しながらツールを使うことが必要である。

» 2009年07月10日 08時00分 公開
[嶋田英樹(プロティビティジャパン),ITmedia]

 J-SOX対応を効率的に行うために、初年度から積極的にITツールの導入を行った企業も多い。しかしその大部分は、当初大変だと言われていた業務プロセスの文書化、すなわち業務フローやリスクコントロールマトリクス(RCM。業務上のリスクとそのリスクを低減している業務=コントロールを一覧にしたもの)の作成を支援するソフトウェアの導入にとどまっている。

 確かに、初年度は文書化に多大な時間を要した。その作業を効率的に進めることに文書化のソフトウェアが役立ったことも事実だろう。しかし、業務の文書化自体は初年度に一度実施してしまえば、次年度以降の作業は初年度に作成した文書の変更と、追加で文書化することになった業務プロセスについて対応がメインになる。従って、今後毎年行われるJ-SOX対応を効率化するためには、本番年度と違った管理のポイントがあり、それをサポートするツールにも違った要件が求められるのである。

 結論を先に言ってしまうと、継続して行われていくJ-SOX対応を効率化してコスト削減を目指すのであれば、単に文書化の支援だけでなく、内部統制の活動を文書管理から評価活動・改善活動までを総合的に管理できるツールが必要である。

 以下、実際にわれわれが導入を支援してきた事例から、2年目以降のJ-SOX評価活動管理の効率化を支援するツールに求められる要件を幾つか紹介したい。

1.文書変更管理

 先にも述べた通り、2年目以降は、文書化作業としては基本的に初年度に作成された文書についての変更・追加管理を行うことになる。そのためには、まずは作成された文書を一元的にデータ管理し、いつ・誰が・どこを・どのように文書を変更したかが常に把握できる機能が必要となる。文書化ソフトウェアの作成機能のみを利用していると、大量に出来上がった文書の保管・変更管理とその履歴を追うことに多大な管理コストが掛かることになる。逆に、文書変更管理が容易に可能となる内部統制管理ツールを導入することよって、管理コストの増大を抑えられる効果は大きい。

 さらに、これらの管理ツールには、文書の内容をデータベース化していることが求められる。RCMが一元的に管理されていてもデータとして取り扱える状態ではない場合、例えばエクセルやワードのファイルをただ集めただけでは、結局一つ一つのファイルの中身の検証には大変な人的工数が掛かってしまう。第1回で言及したリスクやコントロールの見直し分析のためには、RCMの中に記載されている中身をデータとして保存し、それらをユーザーのニーズに応じて自由に検索、抽出、分析、加工できることが必須である。

2.評価結果の収集・活用

 第2回でも述べたが、J-SOX評価活動の負荷低減のためには、各評価プロセスにおける整備状況評価や運用状況評価活動自体はCSA(自己評価)などにより分散させることが効果的である。その半面、評価活動を分散すると、評価活動の結果である調書等の成果物も分散してしまう恐れがあるので、評価結果も文書同様一元的に保管・管理する機能は内部統制ツールとしては重要である。また、それらを集中管理できたとしても、データとして利用できる方法がないと評価結果の一覧や分析が困難となる点は、1.の文書変更管理で触れたポイントと同様である。

3.内部統制業務の進捗管理

 会社の規模・業務の複雑性にもよるが、1年目においては全体作業の進捗管理も工数・コストが掛かる項目であった。これは、2年目以降も程度の差こそあれ同様に続くことであるので、極力管理コストを掛けずに全体の進捗管理を行う仕組みを構築することがコスト削減・効率化のためには不可欠である。内部統制評価管理ツールを導入することによって、データは一元管理されているのであるから、各組織、プロセスごとの評価進捗状況を適時に把握し、それらを管理しやすい方法でユーザーに提供できることがツールの要件としては重要であり、またユーザーとしても最も期待している部分である。

4.改善活動のモニタリング

 評価活動で認識された不備については、適時かつ漏れなく改善活動に結び付けられる必要があり、内部統制評価管理ツールを導入することで、改善活動に関連する情報の一元管理とデータ化による詳細情報の取得は期待されるところである。さらに改善に向けた現場とのコミュニケーションの効率化を含めて、担当者の割り振りや期日管理等を効果的に行えることも要件として求められるであろう。

 今回紹介した内部統制管理ツールの導入に限らず、第1回のプロセス・リスク・コントロールの整理、第2回のCSAの導入、どれもコスト削減・効率化のための取り組みといいながら、逆に初期の段階では、一時的に工数・コストが掛かってしまうことも少なからずある。しかし、このコラムで紹介してきた事例は、J-SOXへの対応がこれから継続的に続くことを念頭において、長期的視野でのコスト削減を考慮して意思決定された例である点を最後にもう一度念押しておきたい。 

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著者プロフィール:嶋田英樹(しまだ ひでき)

嶋田英樹

株式会社プロティビティジャパン マネージングディレクタ公認会計士・公認内部監査人。大阪大学経済学部卒。一般事業会社を経て、1991年アーサーアンダーセン大阪事務所(現・あずさ監査法人)に入所。2003年株式会社プロティビティジャパン創設時に参加。内部統制構築・評価支援及び内部統制評価ツール・内部監査ツール等の導入コンサルティングに従事。


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