わが社のコスト削減

社員のコスト意識を根底から変えた「箱崎可視化計画」わが社のコスト削減

環境保護とコスト削減――。この相反する課題解決をIBMは38年間にわたり続けている。その実体はプリンタの出力制御や電気の消灯など「爪に火をともすような」ものではある。だがこの全社的な取り組みが、毎年3.5%ものエネルギー消費量削減をもたらしている。

» 2009年06月18日 08時00分 公開
[藤村能光,ITmedia]

 米IBMはあらゆる事業活動において、環境を指向した取り組みを進めている。「環境ポリシー」と呼ぶ独自の目標を1971年に制定してから現在まで、全社規模で事業に伴うさまざまなエネルギーの削減を進めてきた。こうした中、1990年代からは世界中の拠点で、毎年3.5%のエネルギー消費量を削減するという必達目標が打ち出された。

 各拠点が目標達成を掲げ、さまざまな施策を講じる中、日本IBMも箱崎事業所を拠点として対策を掲げてきた。その削減ぶりは紙文書の出力管理や照明の消灯などにもおよび、「乾いたぞうきんをさらに絞る」ようなものにまで及んだという。こうした努力が実を結び、入居する従業員一人当たりのエネルギー費用は現在、箱崎事業所が開設した当初に比べて4分の1になった。その間4000人だった従業員が1万1000人に跳ね上がっているにもかかわらずだ。

箱崎事業所エネルギー費用推移入居者一人当たりのエネルギー費用推移 写真左が「箱崎事業所のエネルギー費用の推移」。写真右が「箱崎事業所の入居者一人当たりのエネルギー費用の推移」

コスト感覚を自然と身につけてもらう

日本IBM グリーン・イノベーション事業推進の岡村久和部長 日本IBM グリーン・イノベーション事業推進の岡村久和部長

 「多岐にわたる対策を行い、電力使用を中心に細かな削減を重ねてきた」と振り返るのは、日本IBM グリーン・イノベーション事業推進の岡村久和部長だ。岡村氏は日本IBMが6月16日に広島国際会議場で開催した「IBM環境シンポジウム2009」のセッションにおいて、同社のエネルギー削減への取り組みを紹介した。

 細部にまでこだわったエネルギー削減例としては、電気の消灯が挙がる。箱崎事業所の廊下にある計8本の電灯のうち、明かりがともっているのは1本しかないというのだ。これは「オフィスや会議室の前とエレベーターホールに明かりがあれば、その間の電気は気にならない」(岡村氏)という知恵が結実した削減手法だ。

 電気の無駄を減らすという点では、電気やエアコンを一斉に止める施策も行っている。20時以降になると社長室を含むすべてのオフィスの電気が1時間ごとに消え、これが翌朝まで続く。エアコンも22時以降になるとすべて消える。残って仕事をする場合は、自分のデスクの回りだけ電気を点け直したり、管理センターにエアコンの利用を申請したりしなければならない。

 消灯以降のエネルギーの使用は、使った分だけ部門の予算から削られる。部門経費が上がれば、年間3.5%のエネルギー量削減は実現できない。これにより、従業員には消費したエネルギーに対するコスト感覚が自然に身についていく。従業員は「(こうした取り組みについて)最初は不評だったが、電気をつけっぱなしにしなくなったり、残業をせずに帰るきっかけができたりした」(岡村氏)と話しているという。

用紙・コピー使用量2005年度までの実績箱崎事業所照明・コンセント電力削減(2001年から2007年度の実績) 写真左が「2005年度までの用紙・コピーの使用量の実績」。写真右が「2001年から2007年度における箱崎事業所の照明およびコンセントの電力削減実績」

「箱崎見える化」がもたらした従業員のコスト感覚

 IBMでは、電力量やガスの消費量が金額として算出できる管理システムを全社的に導入し、よりいっそうのコスト感覚を持ってもらうようにしている。だが「これだけでは二酸化炭素を削減できない」と岡村氏は話す。これらのシステムは建物やフロアごとに消費量を算出しているため、エネルギーを使っている当事者がどれだけ消費しているかというつながりが見えにくいからだ。

 こうした状況を打開するために2008年10月から始めたのが、「箱崎見える化プロジェクト」と呼ぶ取り組みだ。これは日本IBMの箱崎事業所に勤める従業員の一人一人が電気などのエネルギーをどれだけ使ったかを追跡し、詳細なコストを割り出すものだ。

 例えば日本IBMでは、プリンタを使った紙文書の出力をOA機器が独自で判断するシステムを導入し、実証実験を進めている。同システムは、電車の乗り換えや地図案内など、どのアプリケーションからデータを出力したかをOA機器が判断し、「どこの事業部の誰が何枚カラープリンタで出力したか」(岡村氏)といった詳細な情報を管理部門に自動的に報告する。カラープリントは白黒プリントに比べてインク代などが余分にかかる中、この仕組みにより「業務以外の用途での無駄なプリントアウトを減らせる」(同)という。

 自分が業務においてどれだけのコストを発生させているかを数値で示すことで、おのおのの従業員が「(紙の資料や電気代を使う)会議の時間を30時間から25時間に減らす」(岡村氏)といったエネルギーの削減施策につなげているという。

 部門ごとに集めたエネルギーや二酸化炭素の削減量のデータは、データベースに落とし込み、共通のダッシュボードで分析できるようにしている。すべての事業部の二酸化炭素の排出量や換算したコスト金額、目標に対するプラスマイナス、目標に達しなかった場合の警告回数などを表示する。削減目標の可視化は、従業員にコスト削減の意識を芽生えさせ、全社的な仕組みとして機能している。

箱崎見える化プロジェクトダッシュボード 写真左が「箱崎見える化プロジェクトの概要」。写真右が「エネルギー削減の課題を抽出するダッシュボード」

 これらのプロジェクトが奏功しているのは、「トップが打ち出した明確な方針のもと、共通の管理システムを使い、報告を義務化しているから」(岡村氏)。空調や照明のコントロールなどは、まるで爪に火をともすような削減だ。だが毎年3.5%のエネルギー消費量を減らし続けるのは、生半可なことではない。細部にまで宿る試行錯誤の積み重ねが、今のコスト削減体制を作り上げた。

 環境保護とコスト削減――。相反する問題を解決するためのヒントが、日本IBMの徹底した取り組みから見て取れる。「1日の20分の1(1.2時間)エアコンを落とせば、二酸化炭素の排出量を5%減らせる。だが二酸化炭素を減らすというと事業部は嫌がる。そこで全体の売り上げからエネルギーコストを割り出し、それを金額に換算して削減を徹底させる。二酸化炭素という言葉を使わずに、実コストを下げることができる」と岡村氏は話している。

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