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栗原潔の考察:クラウドに関する「モヤモヤ」を解消する〜前編 (1/4)

本稿では2回に分けて、クラウドに関する8つの「モヤモヤ」について考えてみることとしたい。


栗原潔氏に関する記事はこちら、オルタナティブ・ブログ『栗原潔のテクノロジー時評Ver2』はこちらです。


 クラウド・コンピューティングは今日のIT業界における最重要キーワードと言ってよいだろう。しかし、ユーザー企業の担当者と話してみると、いまだにクラウドについての基本的な疑問が解消されていない感じがする。本稿では2回に分けて、クラウドに関する8つの「モヤモヤ」について考えてみることとしたい。

モヤモヤ1 クラウド・コンピューティングとは結局何なのか?

 クラウド・コンピューティングの基本的概念については容易に理解できる。雲にたとえられるネットワークの「向こう側」にあるデータセンターにすべてのコンピューティング資源を集約し、利用者はコンピューティング・サービスの具体的実装を気にせずにサービスを活用できるという考え方だ。

 しかし、この基本的概念を越えた議論を行うと混乱が見られることが多い。その理由のひとつはクラウドのより細かい定義について各当事者の意見が一致していないことにあるのではと思う。

 クラウドの定義をひとつに定めることは困難だ。しかし、最も一般的な定義としては、「クラウド=SaaS+PaaS+IaaS」と考えるのが妥当であると思われる。それぞれ、アプリケーション・ソフトウェア、アプリケーション開発/実行プラットフォーム、ハードウェア・インフラストラクチャをネットワーク・サービスとして提供するという考え方だ。コンピュータの「所有」から「利用」へのシフトであると見なすこともできる。

 さらに、処理容量の要求に応じてコンピューティング資源の割り当てを自由に拡大・縮小できる機能(プロビジョニング/デプロビジョニング)、そして、それに伴う従量制課金が適用されていることが通常である。また、利用者自身がセルフサービスで管理を行なえるという点も一般的なクラウドの特性に含めてもよいだろう。

 これより狭いクラウドの定義を行う者もいる。典型的には、AmazonやGoogleが提供する大規模な水平スケーリングを活用したSaaS+PaaS+IaaSがクラウドであるとみなしている者がいる。この種のクラウド上のアプリケーションでは数百台から場合によっては数万台のサーバが使用されることになるため、従来型の企業コンピューティングとは異なるパラダイムが重要となってくる。

 例えば、従来型DBMS(データベース管理システム)と比較して飛躍的に高いスケーラビリティを提供する一方で、データ整合性の要件は緩やかにした分散Key-Value型のデータ保管手段が使われることが多い(その代表例はGoogleが提供するBigTableである)。

 より広い意味でクラウドを使う者もいる。データセンターを使えば全部クラウドだという考え方だ。つまり、従来型のホスティング・サービスやさらにはハウジング・サービスまで含めてクラウドと呼んでしまうということだ。新たな時の言葉が生まれた時には、どうしてもこのようなマーケティング用語としての乱用が見られる。個人的にはこのような「便乗商法」は避けてほしいのだがやむを得ないとも言えるだろう。

 この3種類のクラウドがすべて「クラウド」と呼ばれてしまうことで混乱を招くことが多い。例えば、Amazon EC2のクラウドの実装を見た人が複数マシンをまたがった厳密なトランザクションがサポートされていないことから「クラウドは大規模OLTPには使えない」と結論づけてしまえば、Salesforce.comのSaaSがクラウドだと考えているユーザーは「そんなことはない」と強く反論するだろう。

 Salesforce.comのSaaSの実装は従来型DBMSに基づくものであり通常のOLTPアプリケーションと同様のトランザクション機能をサポートしているからだ。これはまさにクラウドの定義のブレがもたらした混乱の一例である。

 IT業界においてクラウドの定義をひとつに定めよというのは現実的に無理がある。しかし、少なくともクラウドに関する議論を行う際には、当事者間でその議論の中におけるクラウドの「ローカル定義」を行なっておくことが、議論の混乱や拡散を防ぐために有効だろう。

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