OpenStackの狙いとは? クラウドのオープンソフトウェアの本当の意味オルタナティブ・ブロガーの視点

ハードウェアを自在にクラウドに変えることができるという「OpenStack」を発表した米Rackspaceは、市場でどのような展開を考えているのだろうか。オルタナ・ブロガーの鈴木逸平氏の意見を紹介しよう。

» 2010年08月26日 16時57分 公開
[鈴木逸平,ITmedia]

(このコンテンツはオルタナティブ・ブログ「鈴木いっぺい の 北米IT事情: 雲の向こうに何が見えるか?」からの転載です。エントリーはこちら。)

 OpenStackの狙いを簡単に言ってしまえば、「独自仕様でクラウド業界を事実上独占しているAmazon Web Services(AWS)の牙城(がじょう)を切り崩したい」という業界全体の戦略と片付けることができる。

 事実、「AWSの市場シェアは恐らく誰も追いつく事ができない規模に達している」と見る意見が多い。周りを見渡せば、Google、Microsoftがデータセンターの規模という観点では競合し得る可能性を秘めていると言える一方で、提供サービスの幅、パートナー戦略、B to B市場での実績ではAWSが相当先行しているという解釈に至ってしまうからである。

 その中でRackspace Hostingは、運用しているWebサイトの数では、業界で唯一AWSに対抗し得る件数を誇るベンダーである。それ故、クラウド事業者としてはAWSの競合として比較されることが多いが、Rackspace HostingがAWSのビジネスモデルと根本的に異なる面があるということに注目する必要がある。

 それは「本業がホスティング事業だ」ということであり、同社の提供するクラウドサービスはコロケーション、CPUレンタル、VMリース、メールホスティングなどのホスティングサービスメニューの1つでしかないという事実である。

 Rackspace自身からすれば、AWSと競合しているという意識があまりないとも言える。

 上記の複数レベルのアウトソーシングサービスでは、絶対的な差別化ができているからである。「世の中、クラウドだけではない」というメッセージである。

 それでは、Rackspaceが発表したOpenStackは何を意図しているのか、まず事実関係から分析が必要になる。OpenStackに関しては、下記の事実が明らかになっている。

  1. OpenStackの意図は、クラウドインフラの標準化を狙ったものである
  2. OpenStackは、RackspaceのCloud Files(既に入手可能)とCloud Servers、さらにNASAのNebulaプロジェクトからのコードによって構成されている
  3. 約25社がOpenStackプロジェクトに賛同し、OpenStackを管理するNPO企業からコードを入手している

 このOpenStackソフトウェアを利用すれば、誰でもハードウェアプラットファームをクラウド環境に変えることができる。コードは、Apache 2.0ライセンスに基づいて提供されるため、無償で提供され、なおかつOpenStackをベースに開発した成果物も商品化が可能になる。

このコンセプトに賛同したベンダーとしては、発表時点において、既に大小を織り交ぜ25社登場している。代表的なのはIntel、Citrix、Riptano、Dell、Cloud.com、AMD、Scalrなどのベンダーであり、クラウド事業者のみならず、IT業界の広い範囲をカバーしている。

 決してオープンソフトウェア市場のプレイヤーではないRackspaceが自社開発の基盤ソフトウェアをなぜ、あえてオープンソフトウェア市場に寄贈しようと判断をしたのか、RackspaceのPresident of Cloud OperationsであるLew Moorman氏の下記のコメントから類推できる。

"What Android is to smartphone operating systems, we want OpenStack to be for the cloud,"

「AndroidがスマートフォンのOSとして達成しようとしていることを、OpenStackはクラウドで達成しようとしている。」

 IT業界の歴史において、ハードウェア仕様、通信プロトコル、OS仕様などが業界標準化されていったように、IaaSインタフェースもいずれはコモディティ化される運命にあるということを、業界は以前から予測している。Android OSがiPhone OSの牙城(がじょう)を切り崩すためにオープンソフトウェアのモデルを採用したのと同じように、Rackspaceが狙っているのはOpenStackを武器に独自仕様のAmazon Web Serviceの市場を切り崩そうということではないかと考えられる。

 もう1つ、Moorman氏がコメントしていることが非常に興味深い。

"We were forced to invest in the (cloud) platform, whether through buying or investing in development resources,"

「我々は強制的にクラウド事業に対する投資を強いられた。」

また、さらに、

"We want access to technology, not to create technologies,"

「我々のビジネスモデルは、技術を利用することによって付加価値を生むことであって、技術を作ることではない。」

 これは、クラウド事業に取り組んでいる日本のITメーカー、SI事業者、ホスティング事業者全般にも当てはまるジレンマなのではないかと想像される。Rackspaceがサービスを提供することを主事業とするホスティング事業者であることを改めて思い出す必要がある。

 ということであれば、OpenStackは非常に有用なソリューションの1つとして考慮すべきと思うところである。特にIaaS事業者はこれからますますコモディティ化する技術の上でビジネスを展開する必要があるため、ほぼ無償で標準化されたプラットホーム技術を採用するのは至極当然の動きになるのではないかと思われる。

 少なくとも、今からAmazon対抗のクラウド事業にインフラをゼロから開発し、ましてや高額なライセンスフィーを要するVMwareをベースに開発するという計画はあまり現実的な解ではないのではと思うところである。

(元記事はこちら

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