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» 2010年09月13日 08時10分 UPDATE

Weekly Memo:HP前CEOを迎え入れたOracleエリソンCEOの思惑

HPとOracleの関係が緊迫している。OracleがHPのCEOを1カ月前に辞任したマーク・ハード氏を社長に指名したからだ。Oracleラリー・エリソンCEOの思惑やいかに——。

[松岡功,ITmedia]

HP前CEOのOracle入りで両社の関係が緊迫

 「今後、IT市場において両社の協力が不可能になる」

 米Oracleのラリー・エリソンCEOが9月7日(現地時間)に語ったこの発言が、先週巻き起こった米Hewlett-Packard(HP)とOracleの緊迫したやりとりの最後の言葉だ。果たして今後どのような展開を見せるのか。まだ進行中の出来事だが、ここではエリソンCEOの思惑に迫ってみたい。

 事の発端は、Oracleが9月6日、HP前CEOのマーク・ハード氏を社長に指名したことから始まった。ハード氏は2005年4月にHPのCEOに就任した後、同社の業績を好転させたとして高い評価を受けていたが、セクシャルハラスメントの訴えに対する社内調査の中で、行動規範への違反が判明したとして、8月6日に辞任していた。

 米Oracleのラリー・エリソンCEO 米Oracleのラリー・エリソンCEO

 今回の人事には、ハード氏がHPのCEOを辞任した直後に伏線があった。ハード氏とは個人的な友人関係にあるというエリソンCEOがマスコミを通じて、セクハラの事実がなかったのにハード氏を辞めさせるべきではなかったと主張し、「HPの取締役会は、アップルがかつてスティーブ・ジョブズ氏を追い出して以来の最悪の決断をした」と、HPの取締役会を非難するとともに、ハード氏を擁護したのだ。

 さらにエリソンCEOはハード氏のOracle社長就任に際して、「マークはHPで素晴らしい仕事を成し遂げた。Oracleでのさらなる活躍を期待している。マークほど豊富な経験を持ったリーダーは、IT業界にはいない」と語り、ハード氏の経営手腕を高く評価。「HPの犯したミスをOracleが最大限に生かす」とHPへの批判も繰り返した。

 これに対し、HPはすぐさま反発した。Oracleがハード氏の社長就任を発表した翌日の9月7日、ハード氏を契約違反および企業秘密の不正利用の恐れで提訴したのだ。HPによると、ハード氏は同社の機密保持規定に同意・署名しており、その履行を求めるとし、人事の差し止めなどを要求している。

 特に、米Sun Microsystemsを吸収したOracleがサーバやストレージなどの分野で真っ向から競合する形になったことで、「ハード氏はHPの機密情報を利用したり他者に開示したりしないと、Oracleでの職務をまっとうすることはできない」と強く主張している。

 このHPの提訴に、エリソンCEOが黙っているはずはない。「Oracleは長い間、HPを重要なパートナーとみなしてきた。Oracleとマークに対する今回の報復的な提訴によって、HPの取締役会は両社のパートナーシップや共同で取り引きしている顧客、株主、従業員(の利益)を完全に無視した」と警告し、冒頭の発言で関係断絶の可能性にまで踏み込んで強く反発した。

Oracleにとって望ましいHPとの関係

 これまでハード氏の人事をめぐるHPとOracleのやりとりの経緯をざっと見てきたが、エリソンCEOの思惑を推し測るうえでまず注目したいのは、HPのCEOを辞めたばかりのハード氏を、恐らくHPの反発を承知のうえでなぜ迎え入れたか、だ。

 エリソンCEOがハード氏の経営手腕を高く評価し、個人的にも友人同士で信頼関係があることは、これまでの発言で分かる。熱血漢のエリソンCEOらしくHPの取締役会に対する不満も痛烈なほどに語っている。だが、優れたリーダーであるハード氏を急いで迎え入れた最大の理由は、実はお家の事情にあった。

 その事情とは、これまでエリソンCEOの下で社長を務めていたチャールズ・フィリップス氏が退任したことだ。同氏の退任は、ハード氏の社長就任と同じ日に発表された。エリソンCEOは発表文の声明で、「昨年12月にチャールズが辞意を伝えてきたとき、わたしはSunの統合が完了するまで残ってほしいと頼んだ。彼の才能とリーダーシップを失うのは残念だが、彼の決断を尊重する」とコメントしている。

 つまり、Oracleはフィリップス氏に代わる社長候補を探している最中だった。そこにハード氏というこの上ない人材が現れたのである。Sunを吸収してハードウェアとソフトウェア両事業の統合を目指すOracleとしては、その経験と実績を持つハード氏を何としても迎え入れたい。エリソンCEOはそう考えたのに違いない。

 恐らくHPが提訴することも織り込み済みだっただろう。ただ、HPが提訴した米カリフォルニア州の裁判所は他州に比べて、退職者が競合他社に就職することについて寛大だという見方もあり、今回のケースを裁判所がどう判断するかは予断できない。業界関係者によると、「一時的な判断があったとしても、結局は両社による和解を促すのではないか」と見る向きが多いようだ。

 その業界関係者は、今回の一件におけるエリソンCEOの思惑についてこう語った。

 「提訴の落とし所も含めて、エリソンCEOはハード氏の人事を格好の材料として、HPとの間合いを改めて測ろうとしているのではないか。HPとOracleの共通の顧客は世界中に数多く存在しているので、そう簡単に協業関係を断絶できるはずがない。ただ、今後は競合関係も強まることから、協業関係でも一定の優位性を持って交渉を有利に進められるようにするのが、Oracleにとっては望ましいはずだ」

 それともエリソンCEOは冒頭の発言にあるように、本当にHPとの協業関係を断ち切る覚悟をしているのか。今やIT業界で最も注目されるキーパーソンである同氏の深謀遠慮を垣間見ることができそうだ。

プロフィール 松岡功(まつおか・いさお)

松岡功

ITジャーナリストとしてビジネス誌やメディアサイトなどに執筆中。1957年生まれ、大阪府出身。電波新聞社、日刊工業新聞社、コンピュータ・ニュース社(現BCN)などを経てフリーに。2003年10月より3年間、『月刊アイティセレクト』(アイティメディア発行)編集長を務める。(有)松岡編集企画 代表。主な著書は『サン・マイクロシステムズの戦略』(日刊工業新聞社、共著)、『新企業集団・NECグループ』(日本実業出版社)、『NTTドコモ リアルタイム・マネジメントへの挑戦』(日刊工業新聞社、共著)など。


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