中堅・中小企業を変えるクラウド活用

【第2回】独自開発システムはIaaSと組み合わせる中堅・中小企業のSaaS/クラウド活用(1/2 ページ)

単にグループウェアやメールを単体でSaaSへ移行しても得られる効果は少ない。ユーザー企業はSaaS活用を考える際に独自開発のシステムやシステム連携までを含めて考える必要があるという。

» 2010年09月21日 12時00分 公開
[岩上由高(ノークリサーチ),ITmedia]

 前回は中堅・中小企業におけるSaaS/クラウド活用の現状を見た。そこで明らかになったのは、(1)中堅・中小企業にはSaaS/クラウド活用の潜在ニーズが存在する(2)既存業務システムを単に外出ししてもコスト削減は実現できない(3)業績の良いユーザー企業はシステムインテグレーションを伴うIT活用に注目している、というものだった。

 グループウェアやメールなどの情報系システムを単体でSaaSへ移行したとしても、期待するほどのコスト削減効果は得られない。ユーザー企業が業績改善に役立つと考えるのは、ビジネスインテリジェンス(BI)や生産管理システムといったインテグレーションを伴うものである。つまり、ユーザー企業はSaaS活用を考える際に独自開発のシステムやシステム連携までを想定して考える必要がある。そのために重要なのがPaaS(サービスとしてのプラットフォーム)やIaaS(サービスとしてのインフラ)にまで視点を広げたクラウド活用である。

 今回は「SaaS活用を成功させるためのIaaS」をテーマに考える。

SaaS活用と独自開発システムを両立させる4つのアプローチ

 冒頭述べたように、SaaS活用を成功させるためには、SaaS以外の既存システムといかにうまく両立(連携)させるかが重要なポイントとなってくる。話を分かりやすくするために具体例を想定してみよう。中堅の旅行代理店A社は顧客に対するタイムリーな商材提案を実現するため、営業マン向けにモバイルに対応した旅行プラン参照システムの導入を決定した。

  • システム関連の固定費はなるべくかけたくない
  • 営業マンによる社外からのアクセスが前提である
  • 将来的に顧客自らが旅行プランを参照できるようにしたい

 上記のような要件を踏まえて、A社は同システムをSaaSで実現することにした。モバイル対応したSFA(営業支援システム)やCRM(顧客情報管理)は既に数多く存在するため、営業マン向けの旅行プラン参照システムであれば問題なく対応できる。だが、A社には大きな課題があった。

 A社では個々の旅行プランを「商材」と見なし、見積もり、販売、売り上げ、請求といった処理を独自開発した基幹システムで行っていた。営業マン向け旅行プラン参照システム上でも、旅行プランをその場で仮予約する機能は最低限必要となる。そのため、基幹システムとSaaSを何らかの形で連携させる必要が出てきたのである。

 こうした場合の対策としては、大きく4つのアプローチが考えられる。

(1)社内とクラウド環境をVPNなどで連携

 基幹システムと旅行プラン参照システムの双方への影響を極力抑えるという視点でのアプローチである。社内処理に必要なデータ連携はクリアしているが、「将来的に顧客自ら旅行プランを参照できるようにしたい」というニーズに対応した場合、顧客数増大に応じて旅行プラン参照システム側はスケールしても、基幹システム側が追随できなくなる可能性がある。

(2)基幹システムに相当するSaaSを活用

 現状の基幹システムに近いSaaSを採用し、細かい要件の際は業務フロー変更やSaaS側のカスタマイズでカバーするアプローチである。昨今では見積もり、販売、売り上げ、請求などのきめ細かな機能を豊富に選べるSaaSも登場してきている。ただし、自社固有の業務があった場合、業務フローの変更で対処するのか、それとも個別カスタマイズを求めるのか、といった判断を的確に下す必要がある。

(3)基幹システムに相当するシステムをPaaSで構築

 現状の基幹システムに相当するものをPaaS上で構築するアプローチである。(2)と比べて、自社固有の業務への対応力は高くなる。ただし、現状の基幹システムで採用しているミドルウェア、フレームワーク、開発言語がPaaS上のそれらと大きく異なる場合には開発工数がかさむ可能性があるので注意が必要だ。

(4)基幹システムをIaaS上に移設

 現状の基幹システムをIaaS上へと移設するアプローチである。現状の基幹システムが採用しているOSをIaaS側がサポートしていれば、基本的には基幹システムをそのまま移すことが可能となる。基幹システムのアーキテクチャに大きく依存するが、ハードウェアのスペック増強は可能であるため、「将来的に顧客自ら旅行プランを参照できるようにしたい」といったニーズに対応した場合でも、負荷増大への対応が可能となる。

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