このようにA社の事例においては、(4)が最も有効なアプローチと考えられる。もちろん、常に(4)が最善ということではなく、状況に応じて(1)〜(3)のアプローチも検討すべきである。これまでの事例などを踏まえると、大まかに以下のような目安で取捨選択するのが良いように思われる(SaaS活用の対象となるシステムを「SaaS対象システム」、それと連携する必要のある社内の既存システムを「既存システム」と記載する)。
SaaS対象システムの活用が試験的である場合や、既存システムがクラウド環境でサポートされない独自OSであるといった場合 → (1)のアプローチ
既存システムでパッケージ製品を利用しており、同じものがSaaS/クラウドの形態でも提供されている場合 → (2)のアプローチ
既存システムを新規構築または刷新する方針である場合、または既存システムが対象となるPaaSへ容易に移行できることが分かっている場合 → (3)のアプローチ
既存システムをなるべく変更しないものの、SaaS対象システムとの連携に加えて既存システム自体にもクラウド環境のメリット(スケールメリットなど)を付与したい場合 → (4)のアプローチ
今回は本格的なSaaS活用において不可避ともいえる既存システムとの両立について述べた。さまざまな対処方法があるが、クラウド環境がもたらすメリットを既存システムにも享受させたい場合には、既存システムをIaaSへ移行し、SaaSと連携させるというアプローチも検討すべきである。
中堅・中小企業では、規模は小さいながらも独自開発したシステムを抱えるケースが少なくない。それらをSaaS活用における足かせにしないためには、IaaSという選択肢も頭に入れた上で、SaaS活用を検討するという視点を持つことが重要である。
ノークリサーチのシニアアナリスト。早稲田大学理工学部大学院数理科学専攻卒。ジャストシステム、ソニー・システム・デザイン、フィードパスなどを経て現職を務める。豊富な知識と技術的な実績を生かし、各種リサーチ、執筆、コンサルティング業務に従事。著書は「クラウド大全」など。
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