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» 2011年06月25日 08時00分 UPDATE

萩原栄幸が斬る! IT時事刻々:数字や用語の意味を知る――原発事故編

世間に存在するさまざまな数字や専門的な言葉は、一見すると非常に難解であり、時に間違って使われてしまうことがある。今回は原発事故で登場した数字や用語について、その意味するところを考えてみたい。

[萩原栄幸,ITmedia]

本コラムは、情報セキュリティの専門家・萩原栄幸氏がITとビジネスの世界で見落とされがちな、“目からウロコ”のポイントに鋭く切り込みます。


 読者にとっては食傷気味かもしれないが、「原発」に関する話題について触れる際に、用語や数字の意味を正しく理解できていないのではないかと思うことがある。ただ心象的に「怖い!」と感じるだけでなく、中には「原発近くにいた人に近寄るだけで放射能を浴びる」といったデタラメで誹謗中傷的な情報も出回った。事態を冷静に判断するためには、情報を的確につかむことが重要だ。「今さら」という批判があるかもしれないが、改めて今回の原発事故で目にする機会が増えた数字や言葉の意味を取り上げてみたい。

 筆者は環境化学を専攻し、大気や水質を含めた環境に関する事柄を学んだ。チェルノブイリ事故が起きた当時も、その対応に「もどかしさ」を感じたものだったが、今回の事故はそれを遥かにしのぐほどの「もどかしさ」を感じている。

1「放射能」と「放射線」

 先日もあるマスコミの人が「放射能を浴びる」とコメントしていた。正確には「放射線を浴びる」である。例えば、中部電力はホームページで「“放射線”は放出されるエネルギーのことです。放射線を出す能力を“放射能”、放射線を出す物を“放射性物質”と言います。」と記載している。

 ここに懐中電灯があるとしよう。そこから出る光を放射線と仮定すると、次のようになる。

  • 懐中電灯=放射性物質
  • 光=放射線
  • 懐中電灯が光を出す能力=放射能(基本は電池残量や電球の消費電力などで光の強さは変化する)

2「ベクレル」

 今回の原発事故の当初は「シーベルト」という言葉が盛んに使われた。そして、水道水やホウレンソウなどへの影響が心配されるようになると、「ベクレル」という単語が一斉に使われ始めた。物理用語辞典などによれば、ベクレルとは「放射性物質が持つ放射能の強さを表す単位」である。上記の「放射能」と「放射線」の意味を理解している人なら、ベクトルの意味も理解できるだろう。1ベクレルとは1秒間に1個の原子が崩壊していることである。1000ベクレルなら1秒間に1000個の原子が崩壊する程度の量という意味だ。

 それではこの数字がどのようになったら「危険」なのか。専門家によっては、「ベクレルでは分からない。人体に与える影響は放射線の種類により異なる。放射線の種類は多数あり、一概には話せない」とコメントするだろう。その尺度として用いられるのが「シーベルト」になる。

3「シーベルト」

 放射性物質の放射能の強さは、その種類によって人体へ与える影響が異なる。それらを換算して「人体に与える影響」を数値化したものが「シーベルト」である。それではこのシーベルトの数値がどうなると、具体的にどのような影響が出るのだろうか。単位は「1シーベルト=1000ミリシーベルト=1000000マイクロシーベルト」である。以下はその目安だ(単位はミリシーベルト)。

  • 2.4=1年間に浴びる自然放射線の世界平均
  • 4=胃のX線撮影
  • 250=白血球の減少(一度に浴びた場合、以下も同じ)
  • 2000=出血、脱毛、5%の人が死亡
  • 3000=半数が死亡
  • 7000=99%の人が死亡

 テレビなどでは、“自称”(失礼だが……)専門家がベクレルをシーベルトに換算しているシーンを目にする。しかし本来の換算式は非常に複雑である。対象をヨウ素やセシウムに限定しているので、視聴者に誤解を与えている場合もある。この内容の詳細はインターネット上で多数記されている。私的なWebサイトの一部には明らかに内容が誤っているものもあるので、できれば公的なWebサイトで確認していただきたい。

4「半減期」

 文字が表わす通り、放射線を出し続けている放射性物質が半分になるまでの期間を指す。ただ半減期とはいっても、マスコミで扱われる数字の多くが「物理的半減期」である。実際には人体に与えるダメージレベルでみた「生物学的半減期」があり、これらを加味した「実効半減期」で考えなければならない。

 物理的半減期は、数学的確率論として計算で求めることができる。当然ながら半減期が長ければ長いほど人体や環境に与える影響は強くなる。物理的半減期は、有名な種類でみると「ヨウ素131」が8.04日、「コバルト60」が5.3年、「セシウム137」が30年、「プルトニウム239」が2万4000年、「ウラン238」が45億年となる。

 生物学的半減期は、人体に留まっている時間――そのまま排出される場合や、骨や細胞の一部分になる確率とその細胞が崩壊し体外に排出する時間など――だが、吸収された経路が経口摂取(口から吸収:主に食べ物)か、吸入摂取(主に呼吸や皮膚からの吸収)によっても大きく異なる。実効半減期(X)は、「1/X=1/Y+1/Z(Y、Zはそれぞれ物理的半減期、生物学的半減期)という単純な計算式で求めることができる。

5「内部被ばく」と「外部被ばく」

 テレビなどでは、避難所の人に対する被ばく検査をその場で行い、被ばくしていない場合に証明書を発行しているという場面をよく見かける。間違いではないが、これは単純に外部被ばくだけをチェックしているに過ぎない。一番に恐ろしいのは「内部被ばく」である。放射性物質が付着した粉じんや食べ物、また、それ自体を皮膚呼吸などで取り込んで人体の内部に蓄えてしまう。

 放射線の影響は、放射線物質からの距離の二乗に反比例する。つまり、距離が2倍になれば影響は4分の1、3倍なら9分の1、5倍なら25分の1となる。体内では距離がほぼ「ゼロ」となってしまう。

 内部被ばくの検査は、装置を使い、時間もかかるので原発に従事する人ですら、なかなか受診できず、いまだに未受診者が多いと報道されるほどだ。体内に取り込まれた放射性物質が蓄積する場所は、その種類ごとに大よそのことが分かっている。例えば、セシウムやプルトニウムは骨に、ヨウ素は甲状腺に、セシウムは拡散しやすいので骨以外にも筋肉、肺、肝臓、腎臓といった場所に蓄積されてしまう。

6「直ちに健康に影響を与えるものではない……」

 それぞれの分野の専門家や技術者が、1つの意見としてこのように発言すること自体は、構わないと思われる。だが、専門家とは言えない政府関係者がこのように発言することは不適切だと感じている。

 「直ちに影響がない」とは、「長期的にみれば影響がある」と思うのが一般的な感覚だ。要するにガンの危険性は増大することはあっても、少なくなることはない。母胎なら奇形児などの確率の上昇につながる。

 チェルノブイリ事故では、ガンの死亡者がどの程度増加したのであろうか。ロシア政府系のチェルノブイリフォーラムが2005年に発表したところでは3940人だとされている。しかし、2006年のキエフ会議報告書では3万〜6万人、グリーンピースでは9万3000人が事故によるガン患者だと指摘している。

 今回の原発事故が最終的にどうなるのかは、歴史が証明すると思う。ただ、「数字や用語の意味が正しく理解されるように努力をしなかった専門家、政治家、関係者が多数いた」と評価されるような事態はぜひとも避けていただきたい。ましてや、「想定外」という言い訳などはもってのほかである。事故発生後の当事者の対応についても、少しずつその実態が明らかになっているが、粗末なものがあまりにも多く、当事者が「想定外」と主張していることでも、危機管理やリスク管理の専門家が見れば、「全て“想定内”で対処できたはずではないか」と感じることばかりだ。

 特に住民の生活を守るべき地方自治体には、「想定外」という言い訳を使わないことを切に願う。真剣に災害と向き合い、英知を結集することができれば、99%の事象は「想定内」として適切に対応できると信じている。今なお公表されていない事実も多いが、関係者には今からでも「想定内」としての対応ができるように努力していただきたい。

萩原栄幸

一般社団法人「情報セキュリティ相談センター」事務局長、社団法人コンピュータソフトウェア著作権協会技術顧問、ネット情報セキュリティ研究会相談役、CFE 公認不正検査士。旧通産省の情報処理技術者試験の最難関である「特種」に最年少(当時)で合格した実績も持つ。

情報セキュリティに関する講演や執筆を精力的にこなし、一般企業へも顧問やコンサルタント(システムエンジニアおよび情報セキュリティ一般など多岐に渡る実践的指導で有名)として活躍中。「個人情報はこうして盗まれる」(KK ベストセラーズ)や「デジタル・フォレンジック辞典」(日科技連出版)など著書多数。


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