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» 2012年02月06日 09時16分 UPDATE

Weekly Memo:富士通元社長の山本卓眞氏が残した次代へのメッセージ

富士通の社長、会長を務めた山本卓眞氏が亡くなった。哀悼の意を込めて、日本のIT産業界の大御所が残した次代へのメッセージを紹介しておきたい。

[松岡功,ITmedia]

日本のIT産業の競争力向上にも大きく貢献

 富士通が1月30日、同社元社長・会長・名誉会長で現顧問の山本卓眞氏が1月17日に肺炎のため亡くなったと発表した。86歳だった。

 山本氏は、富士通が世界的なコンピュータメーカーとして名乗りを上げる原動力となっただけでなく、日本のIT産業の競争力向上にも大きく貢献した。

 新聞の評伝などでは、米IBMとの著作権紛争をはじめ、半導体やスーパーコンピュータをめぐる日米貿易摩擦でも一歩も引かない気骨を見せた「闘う経営者」や、技術者ながら技術偏重を戒め、技術の鼻をへし折る営業こそが成功の経験則と説いた「技術と営業の両方が分かる経営者」とも。

 富士通元社長の山本卓眞氏 富士通元社長の山本卓眞氏

 筆者も1980年代の社長時代から幾度となく取材の機会を得たが、いつも背筋をピンと伸ばし、大きな声ではっきりとものを言う姿に、氏ならではの威厳を強く感じた。

 山本氏は1949年に、当時の富士通信機製造に入社し、故・池田敏雄氏(元富士通専務)のもとで国産初のリレー式商用コンピュータの開発に携わった。かつて単独インタビューで、その頃のことをこう語っている。

 「当時、池田さんは回路設計をひとりでこなし、何回も動作テストを繰り返して商用化にこぎつけた。私が開発に加わったのは足かけ2年ほどだったが、冬場などはストーブの煙突掃除をしながらススまみれになって作業をしたものだ」

 「ところがリレー式なので、このススが原因となって時々接触不良を起こした。そこでどうすれば正確に動くか知恵を絞った結果、各種のチェック機能が生まれてきた。中には、その発展系がコンピュータの基本技術になったものもある。当時、しっかりと世界に特許を出していたらと思うと稼ぎ損なった気分だ」

 当時を思い出しながら、少し悔しそうに話す山本氏の表情を今でもよく覚えている。この開発にまつわる話をはじめ、氏の60余年にわたるビジネス人生については、数多くの文献などが残っているので参照いただくとして、ここからは日本のIT産業界の大御所が残した次代へのメッセージを紹介しておきたい。

これからの情報社会で一番大事なこと

 筆者がかつて編集に携わっていた『月刊アイティセレクト』2004年7月号の「オピニオンリーダーが語る、これからの情報社会で一番大事なこと」と題した特集記事で、当時、名誉会長だった山本氏に語ってもらったのが以下の内容である。今も色あせることのない次代へのメッセージなので、掻い摘んで記しておく。

 「IT産業で正しく先を読むのは難しい。大切なのは、間違ったときには君子豹変し、すぐに手を打つことだ。企業の面子や社長の面子に構っていてはいけない。これはIT産業だけに求められる姿勢ではなく、ITを利用しているユーザーにとっても同じことがいえる。間違ったと思ったら面子に縛られず、すぐに手を打たないといけない」

 「一方で、誰でも読める傾向というのがある。例えば、今後、日本経済において流通・サービスの比重が高まるのは誰の目にも明らかだ。それに対して、いち早く手を打つことが必要だ。先を読むのは、競争優位の立場に立つという意味でも大切なことである。企業のトップは、ぜひ先を読むことに熱心であってほしい」

 では、どうすれば間違いを少なくできるのか。山本氏は、富士通第5代社長を務めた岡田完二郎氏の先見力を引き合いにこう語った。

 「富士通がコンピュータ事業に本格参入したのは、岡田さんの先見力による決断だった。だが、当人が万能の先見力を持っていたかというと、必ずしもそうとはいえない。では何をしたのか。岡田さんは周囲に優秀なスタッフや情報交換できる人物を置き、それらの人たちから教えを請う、あるいは情報を得る、といったことをしていた。これが先見力を高めることにつながっていった」

 そして山本氏は、先を読むことが難しい情報社会に向けて、こんなメッセージを次代の人たちへ送った。

 「これからの社会をつくり上げていくのは、クリエイティブなセンスを持った文科系の人たちではないかと思っている。これまでの情報社会においては、理工系出身の人たちがいい仕事をしてきた。額に汗を流して、知的財産も数多く蓄積してきた。それはこれからも脈々と続くだろう。今後、その財産を生かして次の社会をつくるのは、文科系出身の人たちの役割だと信じている。私は、文科系の人たちが力を発揮することを期待しているし、それによって新たな世界がつくり上げられることを願っている」

 これを受けて、このインタビュー記事には「新しい社会づくりへ 文科系人間がんばれ」というタイトルをつけたが、今あらためて読み返すと、これからの情報社会に向けて、山本氏のもっと奥深いさまざまな思いが凝縮されたメッセージだったと感じる。

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