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» 2012年03月22日 12時00分 UPDATE

もはやクラウドは「安い」「早い」だけにとどまらない

クラウドを中心とした世界が出来つつあると、筑波大学大学院の加藤和彦教授は語る。

[伏見学,ITmedia]

 「クラウドコンピューティングといえば、“安い”、“早い”、“持たない”。しかし、今やそれだけではないのだ」──。こう話すのは、筑波大学大学院 システム情報工学研究科 コンピュータサイエンス専攻の加藤和彦教授。クラウドサービスが世の中に浸透していくことで、クラウドを中心とした世界になりつつあるという。

 まずは現状のクラウドのメリットを見てみよう。例えば、パブリッククラウドサービスにはユーザーが無料で利用できるものが多く、データセンター設備やハードウェア、ソフトウェアなどの資源を自前で用意せず、すぐにシステム稼働できる。なぜか。

筑波大学大学院 システム情報工学研究科 コンピュータサイエンス専攻の加藤和彦氏 筑波大学大学院 システム情報工学研究科 コンピュータサイエンス専攻の加藤和彦氏

 「安さ」について、クラウド事業者の代表的な存在である米Googleは自社データセンターにサーバを100万台規模抱えるほか、米Microsoftのデータセンターでは一人のシステム管理者が5000台のサーバを管理したり、米Amazonが提供するクラウドサービス「Amazon EC2」のトラフィック量はeコマースサイト本体のトラフィック量を上回ったりと、クラウドは大量生産による規模の経済が働くため効率的なサービスが実現でき、ユーザー一人一人の利用コストを抑えることができる。

 「早さ」について、これまで日本企業のシステムの多くは、要件定義、設計、開発、テスト、運用と、上流から下流にプロセスを進めていく「ウォーターフォールモデル」で開発されていたが、クラウドでは繰り返し試行錯誤して短期間で開発する「アジャイル」が主流になるという。「ウォーターフォールだと、工程途中での手戻りは嫌われ、コストと時間が余分に発生する」と加藤氏は説明する。

 「持たない」に関しては、システムをクラウド事業者のデータセンターに集約するため、ユーザーは自社での保守、運用から解放される。加えて、利用するデータセンターは発電設備やオイル備蓄など最先端の機能を持つものも少なくなく、自社で持つ以上のメリットを享受できるという。

「クラウドの選択肢が広がってきており、ユーザー自身がふさわしいと思うサービスを使えるようになった」(加藤氏)

 このように多くのユーザーがクラウドを活用していくことで、クラウド中心の世の中、クラウドセントリックな世界に変わりつつあると加藤氏は述べる。今や一人でPC、スマートフォン、タブレット端末を使うのは決して珍しいことではないが、これらのデバイスはキャッシュのようなもので、スマートフォンやタブレットはクラウドサービスがあるが故に普及したともいえよう。

 加藤氏もクラウドサービスを活用して各種データを複数のデータセンターにバックアップするなど、クラウドと日常業務を切り離せない状況であるという。「ハードディスクにデータを保存していたときは、ディスクが壊れたらデータを失うというリスクがあった。今はクラウドサービスにつながれば自動的にデータをバックアップできる」と加藤氏はメリットを強調する。

 また、出張などで初めての場所に訪れる際、以前はノートPCに地図データソフトをインストールしたり、地図を印刷したりしたものを持ち歩いていたが、今ではクラウドサービスの「グーグルマップ」などを使って検索エンジンに住所や地名を入力するだけで、目的地と自分の現在の位置情報を表示できるようになった。「特殊なソフトをインストールする必要がなく、どのブラウザでも同じような使い勝手を実現できるのは便利」と加藤氏は力を込める。

eラーニング実習を全国の大学で共有

 システム構築においてもクラウドの利点は大きいという。実例として加藤氏は「がんプロフェッショナル養成プラン」(がんプロ)のeラーニングシステムを挙げる。がんプロとは、文部科学省が質の高いがん専門医などを養成できるプログラムに対して財政支援を行うことにより、国公立大学の教育の活性化を促進し、今後のがん医療を担う医療人の養成推進を図るというもの。筑波大学は、千葉大学、埼玉医科大学、茨城県立医療大学とのグループによる集中的がん専門家養成プロジェクト(関東広域多職種がん専門家チーム養成拠点)を展開しており、そこでの授業の一部にeラーニングを取り入れている。このクラウド基盤のeラーニングシステム「プログラムジュークボックス」に携わっているのが加藤氏なのである。

 プログラムジュークボックスの特徴は、他大学と調整することなく自大学の判断でコンテンツをアップロードできる点。これにより、「大学間での無意識な競争意識によって、どんどんコンテンツを拡充しようという意思が働くのだ」と加藤氏は述べる。

 ほかの地域でもそれぞれ独自のeラーニングシステムを構築していたが、思い通りの運営ができていなかったという。実はそれらの拠点の多くは自らサーバを立ち上げ、ドキュメントを見ながらの運用を行っていたため、セキュリティ対策やバージョンアップなどサーバ管理を医学部で行うのは大変だった。そこで複数の地域拠点から筑波大学らが利用しているeラーニングシステムを要望する声があり、クラウド基盤の横展開を進めていった。現在は全国30大学でサービスを開始しており、4月以降でさらに利用大学は増えていく予定だ。

 「クラウドは急速な進化の中で真の社会インフラになりつつある。クラウドの本質は資源の集約と共有にあり、この強みをうまく生かしていくことが肝要なのだ」(加藤氏)

 ※本記事は、3月7日に開催された「NetSuite Cloud ERP Day 2012」の講演を基に作成。

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