SAPがデータベース分野への本格参入を明言した。同分野で最大手のOracleに真っ向から挑む格好だが、さらなる未来予想図も浮かび上がってきそうだ。
SAPジャパンが5月9日、データベース事業に関する戦略説明会を開いた。独SAPが4月10日に発表したデータベース分野への本格参入について、日本市場での取り組みも含めた戦略展開を明らかにしたもの。これによってSAPは、同分野で最大手の米Oracleに真っ向から挑む格好となった。
SAPのデータベース事業の核となる戦略は、インメモリデータベース「SAP High-Performance Analytic Appliance」(SAP HANA)と、2010年7月に買収した米Sybaseのデータベース製品群の連携・統合だ。SAP HANAを共通基盤とし、その上でSybaseのデータベース製品群を効果的かつ柔軟に利用できるようにするという。
SAPジャパンの安斎富太郎社長は会見で、データベース事業への本格参入についてこう語った。
「SAPは創業以来、顧客企業にリアルタイム経営を実践していただくことを使命としてきたが、ここにきてその大きなネックとなる存在が明らかになってきた。それは、巨大で複雑化しつつあるデータベースだ。データベースをもっと簡素化し標準化しなければ、リアルタイム経営はおぼつかない。そこで今回打ち出したのが、HANAをさまざまなデータベースの共通基盤として、一元管理できるようにした利用環境だ。ビッグデータ時代を迎え、各用途で使われているデータベースをより高性能にしつつ一元管理できるようになれば、顧客企業にとっては大きなメリットになる」
また、安斎社長とともに会見に臨んだSybase日本法人であるサイベースの早川典之社長も、「これまで長い間、サイベースとしてデータベース事業を進めてきたが、単独では事業を拡大することが難しかった。一昨年SAPに買収され、ここにきて戦略展開が明確になったことで、事業拡大へのチャンスが大きく広がったと確信している」と力を込めた。
こうした取り組みに向け、SAPジャパンはSAP HANAなどを販売する同社営業部門にサイベースの営業部門を合流させ、「データベース・テクノロジー営業統括本部」を4月1日付けで創設し、営業体制を強化している。さらに会見で明らかになった詳しい事業戦略については、すでに報道されているので関連記事等を参照いただくとして、今回のSAPの発表を受けて筆者が描いた未来予想図を披露したい。
SAPジャパンの会見で印象深かったのは、Oracleへの宣戦布告ともいえる姿勢だ。事業戦略の説明に立った同社リアルタイムコンピューティング事業本部の馬場渉本部長は、「実は、SAPのデータベース事業はすでにトップランナーの5分の1ほどの規模がある。一方、そのトップランナーはERPなどのアプリケーション事業でSAPを追いかけているが、その規模の差はデータベース事業での対比より相当大きい」と、トップランナーであるOracleへの対抗意識をあらわにしていた。
とくに今回のSAP HANAとSybase製品群の連携・統合戦略は、Oracleのハードウェアとソフトウェアを一体化した「エンジニアド・システム」戦略と比較されるケースが多いことから、会見での説明や補足資料などで、機能、性能、価格ともSAPのほうが優位であることを強調していた。
さらに、安斎社長がOracleのエンジニアド・システムを意識して、「SAPが自らハードウェアまで手がけることはない。現在、ハードウェアメーカー7社がHANAに対応しており、顧客企業に選んでいただけるようにしている」と語ったのも、事業スタンスの違いを明確にしておきたいとの対抗心からだろう。
データベース分野におけるOracleとSAPの今後の戦いは大いに注目されるが、もしOracleのエンジニアド・システム戦略が明らかに優位に立ったとしたら、SAPは戦略転換を迫られることになるだろう。
やはりハードウェアとソフトウェアの最適なチューニングが不可欠となったときに、SAPにはどのような手立てがあるか。そこで浮かび上がってくるのが、米Hewlett-Packard(HP)とのタッグである。HPとSAPはすでに緊密なパートナー関係を有しており、データベース分野以外でも事業ポートフォリオとして幅広い補完関係が成り立つ間柄だ。
実は、HPは昨年初め頃、データベース分野への本格参入を検討していた。その後の経緯については本コラムで過去3回にわたって取り上げてきたので、関連記事を参照いただきたい。その最初である2011年1月11日掲載の本コラムでは、業界関係者の見方をもとに、「HPが将来をにらんで目論んでいるとみられるのは、データベースとして実績のあるSybaseを手に入れること。となると、Sybaseを買収したSAPとどう組むかが焦点となる。場合によっては合併も視野に入れているのではないか」と書いた。
結局、今のところはHPにそうした動きは見られず、安斎社長が語ったようにSAPにも特定のハードウェアメーカーと手を組むつもりは全くないようだが、果たしてどうか。筆者が描く未来予想図では、エンタープライズシステム領域での総合ベンダーは3社に集約される。IBM、Oracle、そしてHP&SAPだ。
SAPジャパンの会見でデータベース事業戦略の説明を聞きながら、これまでのHPの動きを見てきた筆者の目には、HPとっては喉から手が出るほどほしい事業だろう、とも映った。あくまで未来予想図に過ぎないが、いつかHPとSAPが合併する日が来るように思えてならない。
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