“田舎”に開発拠点を設けた真意 サイファー・テック田中克己の「ニッポンのIT企業」(1/2 ページ)

人口8000人弱の徳島県美波町に小さな開発拠点を設けたサイファー・テック。吉田社長が考えるその狙いとは。

» 2012年06月19日 08時00分 公開
[田中克己(IT産業ウオッチャー),ITmedia]

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 暗号化技術の開発とその応用を展開するサイファー・テックが、2012年5月に、人口8000人弱の徳島県美波町に小さな開発拠点を設けた。IT技術者に、畑とIT、サーフィンとIT、つりとITなど仕事と遊びの両立を可能にする環境を用意したのだ。吉田基晴社長は「両方が一流な人ほど、優秀な人材になる」と考えて、美波町への進出を決めたという。

赤字から一転、追い風が吹く

 2003年2月に設立したサイファー・テックは、電子著作権保護システムやコンテンツ配信システムなどの開発、販売を主たる業務としている。最近は、電子書籍市場の立ち上がりとともに、同社のDRM(デジタル著作権管理)関連サービス商品を採用する企業が増えている。大手の印刷会社や書店などが展開する関連会社などで、(1)配布するデータを許可したユーザーだけに閲覧させる、(2)データごとに閲覧期限や期間を設定する、(3)画面の取り込みなど複製行為をさせない、などといったことに利用している。

 実は、こうした需要が本格的になってきたのは2010年秋ごろからで、それ以前の同社は厳しい状況にあった。もちろん、創業時から暗号化技術に力を注いでいるが、「期待したほど、コンテンツ流通市場が広がらなかった」(吉田社長)。加えて、ITベンチャーが開発したセキュリティ商品を選択するユーザー企業が少なかったため、「受託開発と派遣で、食いつないできた」(同)。

 だが、リーマン・ショック後の市場環境の悪化により、派遣を止めて、さらに受託開発から手を引いた。「正確に言えば、仕事が入ってこなくなった」(吉田社長)。サイファー・テックは暗号化技術に絞り込まざるを得ない状況になったのだ。暗号化技術による売り上げが全体の1割程度しかなかった当時、9割を占める派遣と受託開発を止めたことで、同社は赤字に転落したという。

 しかし、辛抱強く暗号化技術の開発に取り組んできたことで、追い風が吹き始めた。電子書籍市場の急速な普及に伴って、同社が開発した商品サービスを採用する電子書籍の配信事業者がじわじわと増えてきた。スマートフォン対応を求める事業者の声にもいち早く対応した結果、売り上げは2011年度(12月期)に約1億1000万円になり、今期は1億5000万円強を見込むほどになったという。

 蓄積した暗号化技術を生かして、企業の情報漏えい対策という新しい市場の開拓も始めた。例えば、製造会社が自社商品の保守マニュアルの外部漏えい防止に活用する。電子化した保守マニュアルが盗まれると、海外で大きな喪失を被ることになりかねないからだ。需要拡大を期待できる市場でもある。

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