働き方の自由化? 社畜化推進? 伝統的ワークスタイルへの挑戦サイボウズ流の働き方(1/2 ページ)

時間と場所の制限を取り払う働き方「ウルトラワーク」を実践するサイボウズ。それは伝統的な就業文化への挑戦ともいえる。同社はどう立ち向かっているのか――。

» 2013年03月28日 08時00分 公開
[野水克也,サイボウズ]

サイボウズ流の働き方・バックナンバー

第1回:「中の人」が語るウルトラワークの実態

第2回:「ウルトラワーク」は勝ち残るための企業戦略


 サイボウズが試行する働く時間と場所の制限を取り払う勤務制度「ウルトラワーク」、今回はそれを支援するツールと、労働基準法上の注意点について紹介します。

社員同士のコラボ

ウルトラワークにおけるお詫び営業の例(たぶん、フィクションです)

 「ウルトラワーク」という言葉の響きは、それだけを聞くと「ノマドワーカー」のような自由なビジネスマンを連想するかもしれませんが、実際にはそんなスタイルで仕事をしたいという人は極めて少数です。単に環境を変えた方が仕事を楽しめるかもしれない、能率が上がりそうだという人だけでなく、家庭などの環境の制限によって在宅勤務や短時間勤務を選択している人もウルトラワークに該当します。

 また、サイボウズでは一定期間全く働けなくなる状態に配慮した最長6年間の育児休暇(介護休暇)制度や、一度会社を辞めたけれども学校へ通ったり、ほかの企業で働いた後に再度入社する「育自分休暇制度」などもあり、ブランクのある社員への復帰を支える準備をしています。

 これらの制度の適用を支援するのが、ITツールを用いたテレワークの仕組みです。

 同じ職場で同じ時間に顔を合わせて仕事するという従来の仕事の仕組みのまま、「時間」と「場所」を自由にすれば、当然ながら困ることが出てきます。ですから、これらの制度の導入には、「非同期」かつ場所の制限に寄らないコミュニケーション方法の導入が不可欠になります。

 ここでいう「非同期」とは、同じ時間に、お互いにやり取りできる環境に無い場合のことを指します。電話は「同期コミュニケーション」ですが、留守番電話のやり取りは「非同期コミュニケーション」といえばわかりやすいでしょうか。グループウェアなどの情報共有ツールは、非同期のコミュニケーションが基本になりますから、時間と場所を自由にするテレワークにおいて威力を発揮します。

 それでは、具体的にITツールをどのように使うのかを、仕事におけるコミュニケーションの種類別にみてみましょう。

テレワークに活用されるクラウド型のグループウェアの例

1.勤怠管理

 出退勤の記録、勤務状態であることを可視化します。出退勤はタイムカード機能によって、勤務開始・終了の打刻がどこからでも行えるメリットがあります。また、勤務状態であることは在籍状況の表示で行えます。

 これらは、同期コミュニケーションツールである「プレゼンス管理」のツールを使って、PCに向かっている状態であることをリアルタイムに表示させたり、SkypeなどのIMツールを併用することで、職場にいる時とほぼ同等の在籍管理が行えます。

2.成果物管理

 ファイル管理ツールや掲示板、プロジェクト管理ツールを使って、与えられたタスクに対しての成果物をアップし、グループで共有することができます。在宅勤務のみならず普通に会社でも使われますから説明は不要でしょう。

3.業務プロセス管理

 プロセス管理には大きく分けて2種類があります。一つはこの業務プロセスです。多くの会社で在宅勤務を検討した時に課題になるのは、紙の伝票で業務の受け渡しをする業務フローです。

 これは電子ワークフローの導入によって簡単に解決します。もちろん、電子ワークフローの導入そのものが多くの企業にとって高い障壁であることも承知しています。ですが、事業継続性計画や災害対策、営業範囲の広域化、国際化なども見据えれば、導入は必須と言えるでしょう。

4.方針決定プロセス管理

 稟議書や方針決定の会議などがここに入ります。実際に顔を合わせて話さないと決まらない内容もありますが、グループウェアを使っての議論やテレビ会議システムとの併用によってカバーできる範囲もあります。検討内容の軽重から、テレワークでできる範囲を決めておくとトラブルが少なくなります。

5.情報の均質化

 全員の机を回すのでさえ時間がかかる紙の回覧板も、グループウェアなら一日で全員が見ることができます、通達や通知については、閲覧記録が残ったり、同時多数への配信が可能になるなど、既にITツールの方が利便性の高い状態にあります。ただし、意識の共有まではなかなか難しく、個々人のITリテラシーや企業風土に左右されます。


 これらをみる限り、大部分のコミュニケーションは大きな困難もなくITツールでカバーできます。一見、在宅勤務というと職場に姿が見えないことに不安を抱きがちですが、業務を回すという側面に限って考えれば、紙さえ無くしてしまえば、あとは容易に実現できるものなのです。ただし、気持ちの問題だけはそう簡単にはうまくいきません。

 例えば、会議で発言せずに暖かく見守っていたつもりが、電子会議室だと単なる放置プレーと思われてしまいます。非同期である場合は、特に沈黙の時間や間といった合議形成の上で時に必要となる根回しや気持ちの整理の時間などを表現することができません。キーボードをたくさん打つ人や早い人の意見が通りやすくなったり、逆に浮いてしまったりすることがあります。また、見守りの代わりになるコミュニケーション手段もなかなか思いつかないでしょう。

 このために、部下と上司が週に一度マンツーマンで直接顔を合わせて話し合う機会を作ったり、毎日Web会議で朝礼を行ったりと、文字にできないコミュニケーションをカバーできる手段を用意するケースがあります。

 また、在宅勤務制度を導入する際に気をつけたいのは、対象者を女性などと限定してはいけないということです。限定した時点で、それはワークスタイルの変更ではなく、非常の場合の補完的勤務手段の提供という位置づけになってしまい、会社に来ることが正常という意識を生みます。これでは福利厚生にはなっても、価値観や意識は変わらないでしょう。

 このため試行の際には、まずは上司が実行することをお勧めします。上司だっていつ休む時が来るかは分かりません。実は、上司自身が不安な場合の方が多いのですが、その事実も自分で実行しみて、はじめて在宅と事業所の勤務を対等の条件で考えられるようになると思います。

 実際、いい歳の管理職(私のことです)が在宅勤務をしてみると、近所には怪しまれる気がして、家族もなんとなく遠慮がちで、思ったより自分がデスクで仕事をしていない事実に気づき、無事に回っている部下たちの仕事が恨めしくなります。自分にとってはそれが重要な気づきでした。

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