「ウルトラワーク」は勝ち残るための企業戦略サイボウズ流の働き方(1/3 ページ)

時間と場所の制約を無くした「ウルトラワーク」に取り組むサイボウズ。同社はなぜウルトラワークを実践するのか――“中の人”ことフェローの野水克也氏が紹介する。

» 2013年03月12日 08時00分 公開
[野水克也,サイボウズ]

サイボウズ流の働き方・バックナンバー

第1回:「中の人」が語るウルトラワークの実態


 前回は、この制度を試験的とはいえ、実際に行っている様子を紹介しました。こういう制度を紹介すると、たいていは羨ましがられたり、お金に余裕のある、福利厚生の整っている会社と思われたりしますが、サイボウズでのウルトラワークの導入目的は企業競争力の強化です。

 今回は、サイボウズがなぜウルトラワークを企業競争力の強化に役立つと考えているかを説明します。

働く時間と場所の制限を取り払え

 まず背景ですが、日本企業のビジネスモデルの変化、平均給与の下落、少子高齢化という要素があります。

 一般的な終身雇用、年功序列の日本の雇用制度は、高度経済成長期のものです。しかしこの制度は、実は高度成長期の日本企業に合っていたもので、今の企業に合致するわけではありません。

 当時は、欧米のいい製品をまねして、少し改善を加え、安い価格でたくさん作ることによって日本は成長しました。そのときに必要なのは勤勉さと団結力、言われたことを効率よくできる体制と、そうする人が評価されます。

 人口構成でも若年層が多く、管理職たる年長者は少ないものでした。企業の言う通りがむしゃらに働けば出世できる年功序列と終身雇用は、企業にとっても非常に都合が良かったわけです。

 しかし、90年代に入って円高が進み、欧米企業がITのネットワークを駆使して早いペースで企業体質やビジネスモデルを変化させていきます。すると、まず人件費、次にビジネスそのもので日本企業の競争力が削がれてしまいました。

 こうなると、企業に必要とされるものは、高付加価値なサービスやモデルを作り出す独創力や改革力になってきます。他人と同じ事を早くやれば評価されるという物差しでは勝ち残れなくなってきたのです。

 企業の競争力が落ちると、当然ながら平均給与は下がります。厚生労働省の勤労統計調査によれば、日本人の給与は90年代後半に比べて17%も下落しています。とはいっても、一度上がった生活水準は簡単には元に戻せません。

 そうなると、下落した給与を補完するために家庭では、共働きが当たり前になってきました。共働きも最初は主婦のパートタイマー中心だったのが、若い世代では夫婦ともにフルタイマーであることが普通になっています。

家事も育児も分担することになりますから、ずっと深夜まで残業したり、毎日飲んで帰ったりというわけにはいかなくなります。

年齢3区分別人口の推移推計(出典:国立社会保障・人口問題研究所)

 そこに高齢化がのしかかります。総務省の予測では、今から12年後の2025年には、20代前半の人口が50代前半の半分近くに減ってしまうそうです。

 既にそうなっている企業もありますが、課長・部長といった管理職の役職が評価基準というスタイルでの年功序列は、上司の数が部下の数より増えてしまえばそもそも成り立ちません。

 加えて、高度成長期なら50代前半でほぼ上がりに近い管理職ポジションに付けたはずでしたが、現代で同じ事をしてしまえば、この人口構成では働かない管理職ばかりになってしまいます。さらに年配の労働者人口が増えると、労働者自身の健康問題と親族の介護問題が出てきます。もう、全員がバリバリずっと働くという訳にはいかないのです。

 つまり企業側からみると、従順と勤勉を評価基準の中心に置いても、競争力が高くなるわけではありません。社員側からみると、一人のビジネスマンが数十年にわたって24時間ずっと働き続けること自体が難しくなってきているというわけです。

 こうなると、蓄積された労働時間に基づいて社員を評価するという年功序列制度には、戦略的な意味がありません。

 企業にとって必要なのは、全員がピラミッドの頂点を目指すというものではなく、多様な人材の育成と柔軟な雇用スタイルであり、社員にとっても多様なワークスタイルであったほうが、都合がいいということになります。

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