次に勤務制度の多様化です。この中心になっているのが、「ウルトラワーク」な働き方です。
企業の勤務制度は、一般的に就業規則で「決まった時間」に「決まった場所」で働くように定められている場合が多いものです。当たり前のように毎朝打刻しているタイムカードは、「定時」に「事業所へ出社する」ことを証明する道具であり、それを標準としている証拠でもあります。
それは時間と場所の二軸を固定するということなのですが、どちらかの軸をずらす働き方があります。
時間軸という観点では、勤務時間をずらしてタイムシフト勤務を可能にする勤務制度がフレックスタイム制です。そして、最近ではこの他に在宅勤務制度という仕組みも出てきました。これはフレックスタイムが「時間」の制限を緩めることに対して、「場所」の制限を緩めるものです。
ウルトラワークの制度の発想はフレックスタイムと在宅勤務制度の両方を合わせて、さらに拡大したものです。つまり、働く時間帯の制限と働く場所の制限を取り払った、「スーパーフレックス&在○勤務制度(宅とは限らない)」がウルトラワークということになります。
この制度は次の2種類の効果を狙っています。
(1)はさらに二通りの効果が期待できます。一つは人生の一局面において、時間や場所の制限ができてしまった人に柔軟な労働環境を提供すること。離職を防いだり、一時的に離脱したり時間を減らす効果があります。もう一つは障害者雇用やダブルキャリア志向など、能力がありながらも、従来の勤務制度では働く機会が得られなかった人材を獲得できる効果です。
(2)の場合も2つの効果が期待できます。一つは物理的な時間の効率化を可能とする点で、もう一つは精神面です。前者では通勤時間を短縮することで、体調をコントロールしやすくしたり、直行などで客先への移動時間を短縮することにより、業務効率を上げたりできるようになります。
精神面では例えば、企画職のメンバーが企画作業を会社のデスクでするのと、違う場所でするのでは、アウトプットが違ってくるでしょう。農業に関する企画をするのであれば、農場が見える場所で企画書を書いた方が筆も進みますし、調査もできるのはないでしょうか。
さて、ウルトラワークを採用した背景と制度の内容を説明してきましたが、いかがでしょうか?たぶん読者の多くが、「そんないいことばかりではなく、悪いこともあるだろう、だいたいどうやって管理するんだ?」と思っているのではないかと思います。
もちろん、不安もあれば悪いこともあります。しかし、それらの多くはITの力を借りてカバーすることができます。そして、こういう制度を取る会社はわたしたちだけではありません。増えてきていることには理由があるからです。
高度成長期と違い、現在の企業には常に新しい発想と戦略が必要で、そのためには多様な人材が必要です。こういう人事制度を説明すると、「大企業はいいですね」と言われ、セミナーを開けば、大企業の人事部の方がたくさん参加されますが、人材面で苦労するのは実は中小企業であるはずです。筆者の個人的な思いとしては、人材獲得で不利な中小企業こそこういった勤務制度や評価制度を整えて大企業との差を縮めるべきではないかと思っています。
サイボウズも東証一部に上場しているとはいえ、売上や人数ではまだまだ中小企業です。しかし、それでも市場での評価に企業の大小は関係なく、Googleやsalesforce.comといった世界的に著名な企業と戦うわけで、人材獲得と離職防止はまさしく企業の命運を握っています。その効果を思えば、これらの制度が福利厚生のためでは無いことと分かっていただけると思います。
次回は、その制度を支援するツールと、労働基準法上の注意点について紹介します。
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