求められるネット選挙マネジメント松岡功のThink Management

インターネットを使った選挙運動が、今年7月の参院選からいよいよ解禁される方向となった。通称「ネット選挙」と呼ばれるこの動きにもマネジメントが求められるのだ。

» 2013年04月18日 08時00分 公開
[松岡功,ITmedia]

ネット選挙がもたらすメリットと可能性

 インターネットを使った選挙運動を解禁する公職選挙法改正案が4月12日の衆院本会議で可決し、参院審議を経て早ければ今月中に成立する見通しとなった。

 これにより、今年7月の参院選からは、これまで選挙期間中に禁じられていた政党や候補者のホームページ、ブログが更新できるようになるほか、TwitterやFacebookといったソーシャルメディアを利用した選挙運動が可能になる。

 ネット選挙の最大のメリットは、候補者と有権者の双方向のやりとりが実現できることだろう。従来の選挙公報やテレビの政見放送、街頭演説などは、候補者が一方的に意見を発信するだけだったが、ソーシャルメディアなどを利用すれば、有権者が候補者に直接問い掛けて答えを聞くことができるようになる。さらにそのやりとりがネット上で公開され、他の有権者が議論に加わることも可能となる。

 政党や候補者にとっては、支持者以外の幅広い意見を聞くことで、自らの政策をブラッシュアップさせていく機会にもなろう。有権者同士の議論や、ネットに慣れ親しんだ若い世代の政治参加を促す契機にもなりそうだ。

 「ニコニコ動画」を運営するドワンゴの川上量生会長が、新聞のインタビュー(朝日新聞2013年3月30日付けオピニオン面)で、ネットが選挙に大きな影響を与える可能性として、次の2点を指摘している。

 まず1つは、ネットを通じての投票の解禁だ。現状では有権者に占める高齢者の比率が高く、投票率も高いため、選挙結果が高齢者の意向に強く左右される。ネット選挙は若い世代の投票率を高め、世代間の不均衡を緩和する効果が期待できるとしている。

 もう1つは、ネットを通じて大量の個人情報を収集し、そのデータを選挙運動に生かすことだ。政治家や政党が個々の有権者とネットでつながれば、個別の政策や発言がどんな人にどの程度支持されたか、ということが瞬時にデータ化できる。蓄積したデータを分析すれば「選挙でどんな政策を打ち出し、どんなイベントを仕掛ければ最大の支持が得られるか」という精緻な予測が可能になるとしている。

リスク対応に向けて考えるべきこと

 一方で、ネット選挙には懸念される点も少なくない。選挙でのネット利用が進んでいる米国や韓国で先ごろ行われた大統領選を見ても、候補者への悪質な中傷がしばしばネット上に流れていたのが象徴的な出来事だ。

 こうしたネット選挙のリスクに対応するため、改正案を基に与野党の間で運用のガイドライン作りが進められている。現時点では、メール送信先の規制、連絡先の表示義務、なりすまし対策などが掲げられている。

 例えば、メール送信先の規制では、候補者や政党からのメールを一般の有権者が転送することはできない。また、あらかじめ必要なメール送信の求めや同意は、選挙ごとに得る必要はないとしている。

 連絡先の表示義務では、ホームページ上の連絡先情報はトップページにメールアドレスなどを分かりやすく表示するのが原則。掲示板は1つ1つの書き込みに連絡先情報の表示が必要だとしている。

 なりすまし対策では、バスワードの管理を厳格に行うことや、各選挙管理委員会において候補者や政党が届け出たWebサイトのURLを告示したり、選管のWebサイトに一覧を掲載するとしている。

 このほか、マニュフェストやビラをWebサイトに載せたり、メールに添付したりすることは自由にできるものの、それらを印刷して配布すると公職選挙法に違反する。また、業者にWebサイトやメールの文書を主体的に企画作成させて報酬を払うと買収とみなされる恐れが高い、といった点が掲げられている。

 中でも一般の有権者が注意しなければならないのは、メールの転送が解禁されない形になりそうなことだ。これは中傷メールを恐れる議員側の不安がぬぐえなかったためのようだが、転送行為だけで公選法違反に問われるという事態も起こり得ることをきちんと把握しておく必要がありそうだ。

 このように、ネット選挙は大きなメリットがある一方で、懸念されるリスクもさまざまに存在する。その意味では、政府、政党、候補者それぞれに、ネット選挙に対応したマネジメントが求められる。

 ただ、懸念される点として筆者がもう1つ問題提起しておきたいのは、選挙運動全体のマネジメントを誰が権限と責任を持って行うのか、である。

 例えば、韓国では歴史的に選管の権限が大きく、ネットでの情報発信だけでなくメディアの選挙報道内容の中立性なども徹底審査しているといわれる。このように選管の権限を大きくすることが適切なのかどうかは各国の事情もあるとみられるが、独立した監視機関を設置することは考えるべき課題のように思う。この点も併せて、ネット選挙にはぜひともマネジメントの発想を取り入れたいところだ。

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