「50年後も生きるデータを」――Pixarのデジタル資産管理の裏側導入事例

世界的人気アニメを多数生み出している米国のアニメスタジオ「Pixar」。映画制作には膨大な量のデータの共有と管理が必要になる。名作を支えるデジタル資産管理の裏側を聞いた。

» 2013年08月28日 11時31分 公開
[山崎春奈,ITmedia]

 「トイ・ストーリー」や「モンスターズ・インク」などの世界的なヒット作を生み出しているアニメスタジオの米Pixar。アニメ映画制作の現場では画像や動画、シミュレーションデータなど膨大なデジタルデータが必要になる。世界中で愛されるエンターテイメントを支えるデジタル資産管理の裏側を聞いた。

photo マーク・ハリソンさん

 Pixarにデジタルデータを管理する部署が発足したのは2004年。「トイ・ストーリー」の公開10周年を記念してDVDを制作する際、制作当時に使用したデータを見つけるのに苦労し、アニメーター一人ひとりに聞いて回ることになったのがきっかけだという。

「過去のデータが必要になって時に初めて、長期に渡るバックアップの仕組みを考えていなかったことに気が付いた。将来を見据えると、個人に頼らないデータ管理の仕組みが重要になると感じた」(データマネジメントチーム テックリーダー マーク・ハリソンさん)という。

 アニメ映画は、1本の作品でデータ量が2〜20テラバイトにもなる。そのデータ管理において、最大の課題はファイルサイズであり、取り扱うファイル単体で900Gバイトになることもあるという。

そこでPixarではPerforce Software社が開発(日本語版は東陽テクニカが提供)しているソフトウェア構成管理ツール「PERFORCE」をベースに独自システム「Templar」を開発。ソースコードだけでなく、画像や動画データも扱えるようカスタマイズした。ITエンジニアはもちろん、ファイル管理ツールの操作になじみのないアニメーターにも使いやすいよう工夫している。

photo マイク・サンディさん

 現在、全社で130テラバイトのデータを管理しているが、これは当初の想定よりもかなり速いペースで増大しているという。「10年前には考えられない数字。これからも加速度的に増えていくだろう。『50年先も生きるデータ』を考え、テクノロジーの進化に合わせて、効率よく安全に長期間保存できるよう一歩ずつ改良を加えていく」(シニアデジタル資産システム管理者 マイク・サンディさん)

 部署の発足から約10年が経ち、データの管理・保存の重要性の理解は社内に浸透しつつあるという。「最初はコンセプトさえ知られてなかったが、今では大きく状況が変化した。会社が大きくなればなるほど、作品の制作に関わる人が増えるだけに、適切なデータマネジメントが生きてくる」(マーク・ハリソンさん)

 ハリソンさんは、新しいシステムや方法を導入すると、どうしても社内から反発が起きると話す。「大切なのはまず狭い範囲で100%成功すること。人を動かすには、実際に上手くいっているのを見せるのが一番であり、『便利になった』と笑顔になってくれる人をもっと増やしていきたい」(同氏)と述べている。

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