組織に潜む内部犯罪を考える(前編) 地域密着型バス会社のケース萩原栄幸の情報セキュリティ相談室(2/2 ページ)

» 2013年09月20日 08時00分 公開
[萩原栄幸,ITmedia]
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 さて結果だが、ごく一部の運転手による明らかな不正行為が発見された。そのパターンは次のいずれかであった。

  • 「入金機が故障している」と利用者に話し、手渡しでお金を受け取っていた(本当に故障なら、まず本社に連絡して代替バスを利用することになっていたが、それをせず、金額などの報告にも虚偽があった)
  • 料金の支払い方法に不慣れな観光客と手渡しでお金をやり取りした際に、現金を着服していた
  • 両替機が5000円札や1万円札の両替に対応していないので、運転士は会社から一定枚数の両替用の1000円札を持参する。両替希望の利用者(ほとんどが観光客)が1万円札を出すと、規則では1000円札10枚を渡し、小銭の両替は両替機を利用する。不正では運賃が1200円なら、お釣りの8800円を利用者に渡し、残金の1200円を着服していた(仮に出発時に1000円札30枚を持参し、車庫に帰る時に1万円札1枚と1000円札20枚なら収支は一致する。ところが、この例では出発時に1000円札30枚に対して1万円札1枚と1000円札22枚、運転士の自腹の800円となる。。1000円札の増加分2枚を着服し、実質的に1200円を懐に入れていた)

回答

 A社に対する地域の評判は「戦前からある由緒正しい会社」であった。その体裁もあって、たまたま発覚した運転手の不正行為について、社内での検討から「調査手段や狙いは明らかにできない」との結論に至り、「おとがめなし」とした。調査結果を全て破棄し、その上で全従業員に「広角レンズの車載カメラを正式採用する」と説明した。全員にどのように録画されるのかを説明し、長時間録画ができるメリットなどを全て正直に話し、会社の方針としてカメラの採用を宣言したのである。

 B氏と付き合いのある弁護士は「日本的な解決手段だ」と言ったそうだ。偶然にも不正行為の瞬間を映像で押さえたとは言え、事前に運転手へ「監視目的」と説明していたわけではなく、その映像を証拠に懲戒免職などを行えば、一部の運転手と訴訟合戦になっていた可能性もある。「ベストではないが、地域の特性も考慮したら、そのような対応も有効かもしれない。欧米では考えられないが……」ということをB氏に告げたらしい。

 後日談だが、全てのバスに新たなカメラを設置して撮影するようになったものの、それでもお金を着服する運転手が現れた。就業規則に則って処分された運転手は複数いたとのことである。

 習慣とは恐ろしいもので、処分された運転手は、カメラで撮影されていることを忘れていたという。恐らく罪悪感は希薄で、「このくらいはお小遣い」という軽い気持ちでいたのだろう。大部分の真面目な運転手にとっては、実に不快な出来事だったに違いない。

 次回は本事案を踏まえて、「内部不正・内部犯罪・不祥事」に関わる基本的な考えについて述べてみたい。

萩原栄幸

日本セキュリティ・マネジメント学会常任理事、「先端技術・情報犯罪とセキュリティ研究会」主査。社団法人コンピュータソフトウェア著作権協会技術顧問、CFE 公認不正検査士。旧通産省の情報処理技術者試験の最難関である「特種」に最年少(当時)で合格。2008年6月まで三菱東京UFJ銀行に勤務、実験室「テクノ巣」の責任者を務める。

組織内部犯罪やネット犯罪、コンプライアンス、情報セキュリティ、クラウド、スマホ、BYODなどをテーマに講演、執筆、コンサルティングと幅広く活躍中。「個人情報はこうして盗まれる」(KK ベストセラーズ)や「デジタル・フォレンジック辞典」(日科技連出版)など著書多数。


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