【第1話】トラブル発生! 動かないシステムその日、私の仕事はなくなりました 〜僕の業務システム改善日記〜(1/3 ページ)

ここは○×ネット株式会社。これまでBtoBの流通サービスを手掛けてきたが、新たにECサイトを立ち上げてCtoCに挑戦しようとしている。そんな同社でシステム運用を担当するケンイチの身にふりかかった事件からストーリーは始まる……。

» 2013年10月02日 08時00分 公開
[谷口有近(シロッコ情報技術研究所),ITmedia]

 「何だこれ……」

 再実行すれば通過するいつものジョブが、なぜか今日は先へ進まない。右クリックから再実行を選択したところで、異常終了を伝えるシンプルな、そして何も解決しないであろう通知メールが増えていくばかり。眼前のジョブは赤丸のままだ。歴史が編み出した『システムと仲良くなる運用手順書_2』のショートカットを叩く。

 最近、全く開いてなかったなこれ…。さてさて、当該部分を探しますよっと。なになに? 「… 開発の人曰く、オンライン側のトランザクション処理との衝突でエラーになっている様子。ジョブはひたすらに再実行にて通過せよ。以上」

 (うむ。やはりこのジョブもひたすら再実行しか手がないか…)

 もう一度、いつもの手順を繰り返し再実行してみたものの、成功する気配は一切ない。この業務システムの運用担当として2年ほど仕事をしているケンイチだからこそ、いつもとは違うジョブの挙動が気になる。

 「飲み会あるんだよ……。今日だけはマジで勘弁してくれ……」

 合コンがある日に限ってシステムがトラブるよね。世の中はうまく出来ている。まあ、そういうものだと思うしかない。

再実行、そして失敗の連続……

 この業務システムの運用で何かしら回復不可能な問題が発生した場合、まず情報システムの開発部門に社内メールで報告することが決まりごとになっている。ただ実は、ケンイチは過去に数回しかこの報告をしたことがない。再実行すれば進むようなジョブばかりなので、わざわざ報告する必要がないと思っているし、報告したところで「再実行してください」と言われるのが関の山だろう

 (さすがに何か変だ…報告専用のメールアドレスがあったような気がするな。確か手順書の後半に……、あったあった)

 メールを送信したのち、ドアの向こうにある開発部門に声を掛けるためにケンイチは立ち上がった。

 数年前、ISMS(情報セキュリティマネジメントシステム)とやらの取得の際、開発と運用の分離を実践したために、以前は声を出せば誰かが振り向いてくれる程度のスペースだった部屋に、ベルリンの壁さながらのカベが出来上がってしまった。まあ静かで快適だし、これはこれでいいのではという感じもある。唯一の問題は、隣部屋の様子をうかがう窓がないことだ。

 「すいませ〜ん! 営業部成果取り込み3のジョブが……。誰かいませんか!?」

 「彼らは今日、新入社員の歓迎会に行ってるよ。ついでに言っておくと、営業部も、もぬけの殻だよ」と遠くの方から気のない返事が来た。

 (うほ、きたこれ……。というか当番さんは誰ですか)

 世の中には当番制、つまりシフトという便利な制度がある。開発部門においてもシフトが組まれており、取り込みバッチ処理が終了する目処となる19時までは担当者が在籍し続けることになっている。ところが、今日は誰もいない。

 (う、担当の人は今日休みか。誰か調整しろよ……)

 営業部のエリアを軽く眺めつつ、ケンイチは運用監視部屋に戻り、背もたれを抱え込んで椅子に座り込む。とりあえず再実行を試みるが相変わらず失敗。さすがに10回以上やって失敗し続けるのは今回が初だ。

 具合が悪いことに、オンライン側のエラー通知まで届き始めた。こんなエラー、これまでに見たことがなかった。検証用のアカウントでログインし、いくつかの操作を試みる。動いてそうだが、エラーは出続けている。

 (変な汗が出るとはまさにこのことだね)

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