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» 2013年12月05日 08時00分 UPDATE

松岡功のThink Management:武田薬品のトップ人事にみる新たなリーダー像

企業のトップ交代は、その企業の事情や当該の業界動向のみならず、時代が要請する経営のリーダー像をも映し出すのではないか。そうした観点で最近の動きを追ってみた。

[松岡功,ITmedia]

武田薬品が外国人トップをヘッドハント

 国内製薬最大手の武田薬品工業が11月30日、英製薬大手の英グラクソ・スミスクライン(GSK)幹部のクリストフ・ウェバー氏を来年6月に社長兼COO(最高執行責任者)に迎える人事を発表した。長谷川閑史社長は同6月に会長兼CEO(最高経営責任者)に就くが、1年後にはCEO職を譲る予定も明らかにした。

 ウェバー氏はフランス出身の47歳で、これまで武田薬品との接点はない。異例のヘッドハントの狙いは、日本の大手企業の多くが課題としているグローバル化の加速にある。

 武田薬品はここ数年、これまで収益源だった日米欧の市場の伸び悩みが見込まれる中で、新たな市場の獲得を目指して積極的な買収に動いてきた。2008年と2011年に買収した米バイオベンチャーとスイスの製薬大手だけで約2兆円を投入。売上高に占める海外比率は今や5割を超え、約3万人の従業員の3分の2が外国人となっている。

 そうした中で、就任11年を迎える長谷川社長の後任には、世界中での多様な人材と向き合い、複雑化する市場と経営を担う人物が必要だったわけだ。

 長谷川氏は同日、同社が都内で開いた記者会見でウェバー氏を起用すると決めた理由について、「グローバルな競争に勝つために必要な経験、会社を引っ張るリーダーシップがある」と説明。外国人社長を迎える点については、「外国人、日本人というのは大きな問題ではない」と強調した。

 長谷川氏がウェバー氏をとりわけ高く評価しているのは、新興国市場での豊富な実務経験があることだ。さらにGSKではアジア太平洋地域担当の上級副社長を務め、直近では成長部門のワクチン事業を統括して実績を上げてきたビジネスとマネジメントの両面における手腕が評価のベースにある。

 長谷川氏によると、後任社長の選考にあたっては1年前から社内外の候補を絞り、社内の指名委員会が面談して決めたという。その過程では社内の日本人も候補に挙がっていたが、「グローバルに対抗していけるよう少しハードルを高くして選考したら、少し不十分な点があった」ことから、最終的にウェバー氏の起用が決まったとしている。

 日産自動車やソニーをはじめ大手企業の外国人トップは珍しくなくなったが、従来は合併や提携の相手から、または社内からの登用が中心だった。だが、今回の武田薬品のようなヘッドハントという手法は異例で、今後の日本企業の経営のあり方に大きな変化をもたらす可能性がありそうだ。

経営手腕と独自の強みが新リーダー像に

 ヘッドハントによって経営トップを迎え入れた企業がその後、ダイナミックな変革を遂げて躍進を続けている象徴的な例といえば、米IBMが挙げられるだろう。1993年にRJRナビスコから転身したルイス・ガースナーCEOが当時、経営不振に陥っていた同社を建て直して新生IBMをつくり上げたのは、つとに知られる話だ。まさしく経営のプロフェッショナルとして、強力なリーダーシップを発揮したという印象が強い。

 そして今、大物のヘッドハントがあり得るのではないかと注目されているのが、米Microsoftのスティーブ・バルマーCEOの後任選びだ。米国の有力メディアによると、米Ford Motorのアラン・ムラーリーCEOが有力候補として挙がっている。

 ムラーリー氏は米Boeingに37年間勤め、民間航空機部門社長兼CEOを務めた後、2006年にFordの社長兼CEOに就任した。Fordでは不採算ブランドを廃止し、経営資源を主力製品に集中させることで再建を果たしている。同氏もガースナー氏と同様、まさしく経営のプロフェショナルである。しかも製造業を熟知しているのが、同氏の真骨頂といえるだろう。

 こうしてみると、ヘッドハントによって招へいされる経営トップは、異業種であっても経営のプロフェッショナルであることが決め手になっているといえそうだ。

 では、武田薬品に招へいされたウェバー氏の場合はどうかというと、ガースナー氏やムラーリー氏と比べると経営のプロフェッショナルに向けて磨きをかけている最中ともいえようが、長谷川氏が高く評価しているようにグローバル化を推進する中でも特に新興国市場に精通しているという強みがある。この点に、今後の経営トップにおける新たなリーダー像が見て取れるのではないだろうか。

 つまりは、経営のプロフェッショナルであるとともに、経験と実績に裏打ちされた独自の強みを持っているということだ。その強みが求められてヘッドハントされるケースがこれから増えてくるのはなかろうか。

 日本企業が今後、グローバル化を加速していく上で、国籍を問わず優秀な人材をヘッドハントして経営トップに迎え入れるという選択肢も取り入れることができるかどうか。今回の武田薬品のチャレンジがその突破口となるかどうか、注目しておきたい。

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