約9000隻の船舶の安全をクラウドで支える日本海事協会世界につながる“海事クラウド”(1/2 ページ)

世界中で運航される商船の船級検査で約20%強のシェアを持つ日本海事協会は、クラウドサービスを活用し、約30年の船舶のライフサイクルに亘って、必要な情報を管理する取り組みを進めている。

» 2013年12月17日 08時00分 公開
[國谷武史,ITmedia]

世界中の情報を管理・共有

 船舶や海洋構造物の安全及び海洋環境の保全のための検査に携わる「船級協会」という第三者機関がある。明治32年(1899年)に「帝国海事協会」として設立され、114年の歴史を持つ日本海事協会(以下、ClassNK)は、この分野において世界トップクラスのシェアを持ち、9000隻近い船舶の安全を支えている。その基盤となるクラウドサービスへの取り組みを推進中だ。

業務執行委員 研究開発推進室長の高野裕文氏

 船級協会は、船舶や海洋構造物が国際的な安全・環境基準を満たしているかについて、建造段階から就航中および解体時に至るまで検査を実施し、証明する公的な役割を担う。ClassNK 業務執行委員 研究開発推進室長の高野裕文氏によると、海上貿易の歴史において国際商船は世界中の海洋を頻繁に行き来することから、事故や災害などのリスクに備えるべく保険が必須であり、第三者機関である船級が、船舶に対し一定の格付を提供するという重要な役割を担ってきた。船舶には造船所、メーカー、船主、世界各国の政府機関などさまざまなステークスホルダーが存在する。船級協会は、そうしたステークホルダーの利害に左右されることなく船舶の安全性等を評価・証明する独立した存在だ。

 ClassNKは世界に128拠点を持ち、日本だけでなく海外企業が所有・運航する船舶に対する評価・証明を行う一方、検査にあたっての指針である規則を制定している。船舶のライフサイクル(設計・建造〜就航〜解体)は平均25〜30年で、日本で建造・就航し、途中で海外に売却されるケースも少なくない。最近では環境への配慮から解撤(かいてつ:廃船の解体)にあたって、船舶内に存在する有害物質の適切な処理が求められるようになった。

 「ClassNKでは船舶のライフサイクルにわたる膨大な情報を管理し、世界中のステークホルダーに情報を提供しています。建造時のデータは30年後の解体時にも必要となるため、円滑な情報共有の仕組みを実現するためにもITは欠かせません」(高野氏)という。

 ClassNKが、クラウド活用を検討するきっかけになったのは、国際海事機関(IMO)で「シップリサイクル条約」が採択されたことによる。解撤時において有害物質による環境への負荷を最小化し、安全で環境にやさしいリサイクルを可能とすべく、建造時からの情報を適切に保持・蓄積できる仕組みが求められた。

シップリサイクル事業推進チーム 主管の平田純一氏

 「シップリサイクル条約の要件に基づき、約1万点の調達品それぞれに有害物質情報を示す材料宣誓書(MD)及び供給者適合宣言(SDoC)という文書を用意しなくてはなりません。造船所や舶用機器メーカーといった関係者が、紙ベースで運用に取り組まれた所、文書の受け渡しと保管の煩雑さ、また条約で要求される船ごとの有害物質リストを作成する際の記載ミスや有害物質含有量の計算負担といった問題が発生しました」(研究開発推進室兼シップリサイクル事業推進チーム 主管の平田純一氏)

 そこでClassNKは、世界各地に所在する造船所とメーカー間の必要書類の提出依頼及び回答、また自動的に有害物質リストを作成するソリューションとして、「PrimeShip-GREEN/SRM」をクラウド上で提供している。シップリサイクルに関わるグローバルな共通基盤として、現在90以上の造船所と1700社以上のメーカーなどに利用されている。

 さらにClassNKでは、設計図を始めとした膨大な船舶に関わる図書資料の電子化とクラウドでの共有化にも取り組む。船主は自社の施設で図書資料を保管しているが、その保管スペースは一隻あたり2〜3平方メートルにもなり、情報活用にあたっての制約が多かった。電子化により保管スペースを節約できるのみならず、世界中から情報へアクセスできるようになる。緊急時にも迅速に情報が入手できるようになった。船舶に関わる図書管理に関し、2016年よりIMOによる新たな基準が導入されるが、ClassNKは世界に先駆けてこの基準に準拠したアーカイブセンターの構築を実現した。

世界でのClassNKの拠点
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