日本人の生真面目さが企業をダメにするなぜ日本はガラパゴスITなのか(1/2 ページ)

日本のITシステムは“ガラパゴスIT”などと呼ばれ、その特殊さがゆえにシステム構築に莫大な費用がかかったり、新技術導入が遅れるなどの問題が発生している。では、なぜこのような事態になってしまうのか。HPで数多くの案件を手掛けてきた西村氏に聞いた。

» 2014年09月24日 10時00分 公開
[廣瀬治郎,ITmedia]

 日本企業が強い競争力を身に付け、海外に打って出て、継続的に成長するためには、IT戦略が非常に重要である。数多くのメディアやセミナーで、著名なアナリストやコンサルタントが口を酸っぱくして言っている言葉だ。

 実際、優れたIT戦略と的確なIT投資によって、世界を相手に事業を展開している欧米企業は少なくない。一方の日本企業はと言うと、強力なIT戦略で競争力を付けていると言えるところがどれほどあるだろうか。「ウチはITを活用して世界に打って出る」と、胸を張って言える経営者はどれほどいるだろうか。

 日本企業のIT戦略は、欧米よりも遥かに遅れている。「この原因は日本人特有の“生真面目さ”にある」と述べるのは、日本ヒューレット・パッカードでエンタープライズ向けにエグゼクティブコンサルタントを務め、“日本を強くするエバンジェリスト”として活動している西村毅氏だ。

 西村氏は、古くからエンタープライズや官公庁を対象に、コンサルティングや啓蒙活動に従事してきた経験を持つ。また自身も、7年間以上の長きにわたって外務省の情報化統括責任者(CIO)補佐官を努め、同氏が関わってきたプロジェクトの幾つかは、すでに実現に至っているという。

 日本企業のIT戦略がうまく行かないのはなぜだろうか。コンサルタントとして何人ものCIOを支援し、重要なプロジェクトを成功に導いてきた西村氏に、私たちはどうすればよいのか話を伺った。

生真面目すぎる日本企業

── 日本企業のIT戦略に対する問題はどこにあるのでしょうか

西村氏 日本企業・日本人の問題点は、「環境」と「文化」、そして「気質」にあると考えています。

 まず環境ですが、日本は欧米に比べて“労働流動性が低い”ことが特徴です。つまり、あまり転職をせず、定年まで勤めあげる人が多いのです。

西村毅氏 日本を強くするエバンジェリスト
日本ヒューレット・パッカード エンタープライズサービス事業統括 アプリケーション・ビジネスサービス統括本部 エグゼクティブコンサルタント 西村毅氏

 欧米のように人材の流動性が高い場合、例えばある会社のIT担当者がほかの会社に転職したとき、元の会社で成功した事例を基に新しい会社のIT戦略を立案し、実行します。このおかげで、どの会社も似たようなシステムにはなりますが、ベストプラクティスが浸透していきます。

 また日本企業はシャイな性格で、自社の成功を自慢したがりません。そのため、ベストプラクティスを共有するという方向にならないのです。さらに悪いことには、IT担当者は自社のシステムに没頭しているため、無意識にそれが全てだと思い込みます。他社の成功から学ぶことも少ないため、自己流のシステムを構築してしまいます。

 日本企業の2つ目の特徴は、日本人が儒教的精神を持ち合わせていることもあるのでしょうが、“エラい人に逆らわない”文化です。

 組織のエラい人が、必ずしもITの見識が深いわけではありません。偏った知識を持って思い付きでモノを言う可能性もあるのです。しかし、もしエラい人が間違った戦略を掲げても、反論して制する部下は稀です。むしろ、この思い付きを何が何でも実現しなければならない“雰囲気”が、日本企業の中にはあります。

 この儒教的文化と労働流動性の低さとが相まって、悪い相乗効果を生み、極めて一人よがりで、へんてこなシステムが出来やすいのです。

 そして、これが最も問題なのですが、日本人は真面目すぎるのです。まず、他社の成功例もよく知らないまま、少ない情報から何とか答えを出そうと努力します。また、エラい人が思い付きで言ったことを、正しいとは限らないにもかかわらず、何とか実現しようと頑張ってしまいます。

ガラパゴス化し続ける日本のIT

── こうした日本企業の悪しき特徴は、どのような結果を招いてしまうのでしょうか

西村氏 世の中の変化に対応する力が失われます。新しい技術や製品が登場しても、すぐに対応できなくなります。

 隣の企業が新しい技術を取り入れて成功しても、それを取り入れようとはしません。また、日本企業の普通の“エラい人”の多くは保守的で、新しいモノに飛びつくことは少なく慎重になりがちです。そうした方がITを取り仕切っている間は、企業としての新しいモノへの感度がどんどん鈍ります。

 これに拍車をかけるのが、日本人の生真面目さです。

 ITエンジニアが学生や新人のころの勉強に用いた教科書には、「要件定義をきっちりやりなさい。それからシステムを設計し、構築しましょう」と書かれています。それを真面目にやろうとします。

 しかし、例えば現在のアプリケーションは、既存のパッケージ製品と業務とのフィット&ギャップを繰り返し、擦り合わせをしながら最適解を探っていくのが普通です。極端な話、パッケージ製品に業務を合わせたほうが、コストや時間をかけずに済む場合も少なくないのです。

 パッケージ製品を使わないにしても、ミドルウェアを上手に組み合わせて合理的に済ませるべきで、フルスクラッチでシステムを開発するのは、特に戦略的な部分に限定されるべきなのです。

 ところが、教科書の指導を真に受けて要件ありきで話を進めると、パッケージに膨大なカスタマイズを施したり、この要件を満たすためにはミドルウェアAを、次の要件を満たすためにミドルウェアBをと、さまざまなミドルウェアを少しずつ無理やり使うはめになってしまいます。

 本来は、さまざまなパッケージ製品やミドルウェアを学んだ上で、それぞれが最大の効果を発揮するようにシステムを構築すべきです。しかし、無理に要件に合わせようとするため、パッケージ製品やミドルウェアのメリットを生かせず、いびつなシステムが出来てしまいます。

 労働流動性の低さにしても、エラい人の指示を守ることにしても、真面目さにしても、ひとつひとつは決して悪いことばかりではありません。しかし、ITの世界においては悪い面が色濃く出て、日本のITを「ガラパゴス化」させてしまうのです。

 実は、日本におけるGDPや国家予算に対するIT予算の比率は、他の先進諸国に比べても遜色ありません。しかし、欧米企業がパッケージ製品やミドルウェアを上手に用いて低コストでシステムを仕上げているのに対し、日本企業はフルスクラッチでゼロから作り上げています。

 つまり、同じIT予算にしても、日本企業は基幹システムを作り、保守するだけで終わってしまうところが、欧米企業は新しいことにどんどん投資できます。このことは、日本の国際競争力を低下させる大きな問題だと捉えています。

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