日本マイクロソフト社長が語るIBMとのクラウド提携の意味Weekly Memo

IBMとMicrosoftが先週発表したクラウド分野での提携はどのような意味があるのか。日本マイクロソフトの樋口泰行社長に戦略を聞いた。

» 2014年10月27日 17時00分 公開
[松岡功,ITmedia]

エンタープライズ向けパブリッククラウド基盤の標準に

 米IBMと米Microsoftが10月22日(現地時間)、それぞれのエンタープライズソフトウェアを「Microsoft Azure」とIBMクラウドで連携して提供すると発表した。両社はこの提携により、ユーザー企業、パートナー、開発者のクラウドにおける選択肢が広がり、新たなビジネス機会の獲得やコスト削減が可能になるとしている。

 両社の提携内容については関連記事を参照いただくとして、ここではこの提携発表後、日本マイクロソフトの樋口泰行社長に、提携の意味やインパクトについて取材する機会を得たので、その一問一答を記しておきたい。

――IBMとの提携はどのような意味があるのか。

筆者のインタビューに答える日本マイクロソフトの樋口泰行社長 筆者のインタビューに答える日本マイクロソフトの樋口泰行社長

樋口 MicrosoftはAzureにおいて、これまでもOracleやSAP、Salesforce.comなどとソフトウェアやサービスの相互連携を図ってきたが、今回のIBMとの提携によって、Azureがスタンダードなエンタープライズ向けパブリッククラウド基盤として認められたとの確信を得た。

 現在、グローバルで拡張性やコスト効率の非常に高い企業向けパブリッククラウド基盤を展開しているベンダーとしては、MicrosoftのほかにAmazon Web Services(AWS)やGoogleが挙げられるが、エンタープライズグレードの領域での本格的な競争はまさにこれからだ。

 そうした中で、Oracle、SAPに続いて、エンタープライズ分野で豊富な実績のあるIBMとの提携が実現したことで、ユーザー企業やパートナー、開発者の方々にもAzureがエンタープライズ向けパブリッククラウド基盤のスタンダードになったと認めていただけると確信している。

――とはいえ、AWSもMicrosoftを含めて各社と幅広く提携しており、IBMやOracleもパブリッククラウド基盤の展開に本腰を入れ始めている。競争はますます激しくなるのではないか。

樋口 MicrosoftのAzureがAWSのサービスと決定的に違うのは、プライベートクラウドやオンプレミスと連携したハイブリッドクラウド環境を構築しやすいことだ。この特長があるからこそ、IBMやOracle、SAPとの提携も実現した。

 これからはエンタープライズグレードを含めて、ハイブリッドクラウド環境へのユーザー企業ニーズが高まっていく。その中でパブリッククラウド基盤は、その一翼として確固たる役割を担うことになると見ている。

 IBMやOracleもパブリッククラウド基盤を手掛けているが、先に挙げたMicrosoftやAWS、Googleが現在繰り広げている熾烈な競争には真っ向から対抗しないのではないか。むしろ、そこの部分はAzureを1つの選択肢として連携相手に選んでいただけたのではないかと考えている。

オープンなMicrosoft Azureを象徴するIBMとの提携

――今回のIBMとの提携は、従来から企業向けITを手掛けてきた両社が、クラウドの出現とともに勢力を拡大してきたAWSやGoogleに対抗する構図にも見て取れるが。

樋口 そういう構図に見えるのは確かだ。ただ、AWSやGoogleに対抗するのもさることながら、先ほど述べたようにハイブリッドクラウド環境へのユーザー企業ニーズが高まっている中で、従来から企業向けITを手掛けてきたベンダー同士が連携してそのニーズに応えていくのは当然の流れともいえる。

 ユーザー企業の多くがこれまでオンプレミスで構築してきたのはオープンなシステムだ。そのオープン指向はクラウド時代になっても同様で、ベンダーロックインを避けたいというニーズは高い。中でもとくにパブリッククラウド基盤は、オープンであることが求められる。AzureがOracleやSAP、Salesforce.com、そしてIBMのソフトウェアやサービスとの相互連携を図っているのは、まさしくオープンであることの証しだ。

――とはいえ、かつてのAzureはむしろベンダーロックインを狙っていたイメージが強い。2014年2月、米国本社のCEOにサティア・ナデラ氏が就いたことで大きく戦略転換したようだが。

樋口 ナデラはCEOに就く前の数年間、Azureの事業責任者を務めており、その当時から強いオープン指向を持っていた。実際、Oracleとの提携は昨年夏に発表しており、2014年2月にCEOに就いてからはさらに自分の考えを前面に押し出している。その意味で今回のIBMとの提携は、オープンなAzureを象徴する大きなマイルストーンになると考えている。と同時に、スタンダードなエンタープライズ向けパブリッククラウド基盤として今後一層磨きをかけていかなければならないと肝に銘じている。


 以上が、樋口氏との一問一答である。とりわけ、今回のIBMとの提携によって、「Azureがスタンダードなエンタープライズ向けパブリッククラウド基盤として認められたとの確信を得た」とのコメントが印象的だった。果たしてIBM側は今回のMicrosoftとの提携をどうとらえているのか。取材を続けたい。

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