諸外国の「マイナンバー」の仕組み、ヘンなところと見習うところは?萩原栄幸の情報セキュリティ相談室(2/2 ページ)

» 2015年04月24日 10時30分 公開
[萩原栄幸ITmedia]
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ドイツ

 「税務識別番号」として11桁のコードになっている。日本の住民票コードと同じ桁数(日本のマインナンバーよりは1桁少ない)であり、原則として引っ越しをしても番号が変わらない点も同じだ。ただし、プライバシー侵害の恐れがあるとして、長い間採用されなかったという。

 さらに、現在でも「国民ID」と言わず「税務識別番号」としている。これは目的以外での利用が、政府機関でも一切認められていないためだ。

 順次検討を深めて他の政府機関でも使用を認めていこうという道筋はあるようだ。一方、日本の場合は部分的ではあるが、複数の機関でもマイナンバーの利用を認めており、将来の構想として民間にも広く利用を認めようとしている。このことに警戒する有識者は多い。前項で紹介した米国のような事態になってからでは遅い。ぜひ深い思慮を求めたい。

その他の国では?

 本稿で挙げた以外の国での状況は、財務省が公開しているWebページ「諸外国における税務面で利用されている番号制度の概要」で簡単な表にまとめられている。現時点で最終更新が「2014年1月」とあるので、情報は新しいものだろう。表形式なので比較にはいいが、内容があまり記載されていないのが残念である。

 いずれにしてもほとんどの国では国民総背番号制の“強制”(義務?)に後ろ向きであり、その利用目的についても最近制度を策定した国ほど慎重になっているというのが現実だ。日本の「マイナンバー」については、完璧なほど一気通貫で国民を丸裸にするような制度にはならないと思いたいが、その可能性を十分にはらんでいる。これほど短期間でここまで作りこんだ制度を導入する国は他にないだろう。

 今の政権がこれを悪用するなんて考えられない(期待という意味で)が、10年後、20年後に、時の権力者が悪用しないとはいえない。そんな事態を国民は危惧しているのであって、悪用を防ぐ“安全弁”を今後どのように担保し、国民の理解を得られるのかが政府の重要なテーマになると思われる。それがないなら、住基番号のように制度を導入しても有名無実化してしまったり、グリーンカードのように廃止が国会決議されたりするような事態になるかもしれない。

 筆者は、マイナンバー制度が多くの人から理解が得られるように熟慮され、有効活用され、真に国民がその便利さを享受できる仕組みになってほしいと願っている。次回は民間企業がこのマイナンバーをシステムにどう取り込んでいて、どうなやんでいるのか、現場の視点で解説したい。

萩原栄幸

日本セキュリティ・マネジメント学会常任理事、「先端技術・情報犯罪とセキュリティ研究会」主査。社団法人コンピュータソフトウェア著作権協会技術顧問、CFE 公認不正検査士。旧通産省の情報処理技術者試験の最難関である「特種」に最年少(当時)で合格。2008年6月まで三菱東京UFJ銀行に勤務、実験室「テクノ巣」の責任者を務める。

組織内部犯罪やネット犯罪、コンプライアンス、情報セキュリティ、クラウド、スマホ、BYODなどをテーマに講演、執筆、コンサルティングと幅広く活躍中。「個人情報はこうして盗まれる」(KK ベストセラーズ)や「デジタル・フォレンジック辞典」(日科技連出版)など著書多数。

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