第12回 「ベンダーロックイン」の誤解テクノロジーエバンジェリスト 小川大地の「ここが変だよ!? 日本のITインフラ」(1/2 ページ)

欧米で売れているコンバージドインフラだが、日本では「ベンダーロックインだ」という声が上がり、SIer潰しだなどとの比喩の表現も見かける。「ベンダーロックイン」しているのは誰か、日本に「ベンダーロックインとコンバージドインフラに関わる誤解」があるのはなぜか。冷静に解説する。

» 2015年05月08日 08時00分 公開

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 日本のIT系メディアやジャーナリストの方々は、コンバージド・インフラストラクチャ(コンバージドインフラ)のことを日本語で「垂直統合型システム」「統合型アプライアンス」と記すことがあります。しかし、後者はともかく前者は欧米人に全く伝わりません。“Vertical-Integration System”と言っても「?」と返されるでしょう。日本では捻じ曲がった訳語が根付いてしまいました。

 これが原因か定かではありませんが、日本の中でコンバージド・インフラストラクチャについての誤解は広がる一方です。その筆頭である「ベンダーロックイン」について考えてみましょう。


コンバージドインフラに「ベンダーロックイン」はない

 いきなりですが、ベンダーロックインって何でしょうか?

 ベンダーロックインとは「特定ベンダーの独自技術・サービスへの依存が強いために、他社への“乗り換え”が困難になる現象」のことです。例えば、人事システムとしてあるベンダーの製品を導入した場合、同システムの次回更改についても同社製品を選択せざるを得ず、囲い込まれてしまっている状況を指します。

 注意すべき点ではありますが、“垂直統合”と訳されるコンバージドインフラにベンダーロックはあるのでしょうか?

 具体的な例で考えてみましょう。仮想化基盤のハードウェアとして、A社のコンバージドインフラを採用したとします。ソフトウェアはVMware vSphereを採用しました。5年後、老朽化のためこの基盤を更改しましょうとなりました。この場合、次期選定にあたってベンダーや製品に縛りはありますでしょうか。

  1. A社のコンバージド・インフラストラクチャを購入しなければならない
  2. A社製ハードウェアであれば何でもよい
  3. 特に制約はない(どこのメーカーのハードウェアでも構わない)

 実際にイメージしてみると分かると思います。答えは(3)です。

 移行元がコンバージドインフラだろうがアラカルト構成だろうか、VMware仮想マシンは新しいハードウェアへ簡単に移行できます。データフォーマットを変換する必要もありませんし、ライブマイグレーション技術を利用した無停止移行も不可能ではありません。

 これは、今日の多くのコンバージドインフラが、どのハードウェアでも平等に動作するオープンな仮想化ソフトウェア(VMwareやHyper-Vなど)を併用しているためです。新システムへ引き継ぐべきデータは“仮想マシン”ですが、そのフォーマットはハードウェアを限定しません。仮想化ソフトウェアが変わらない限り、どこのハードウェアにも乗り換えができます。

photo コンバージドインフラはベンダーロックしない

 「ベンダーロックイン」と聞くと、ハードウェアベンダーを思い浮かべる方が多いのではないでしょうか。しかしながら、実際に乗り換えを阻害するのは“データ”です。ですので、ベンダーロックインの有無はデータフォーマットやエクスポート機能を開発・管理しているソフトウェアベンダーに関わってきます。

 ……まるでソフトウェアベンダーを悪者扱いしているようですが、必ずしもそうではありません。プロプライエタリな独自フォーマットではなく、他社でも扱えるオープン規格なデータフォーマットを採用する製品であればベンダーロックは避けられます。例えば、Microsoft Officeはバージョン2007からOpen XMLファイルフォーマットに切り替えました。「*.docx」など、拡張子の末尾に“x”の付いた新フォーマットのファイルは、他社製品でも読み書きが可能です。

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