セイコーエプソンに学ぶ、“アプリの開発工数を3割減らす”方法(1/2 ページ)

iOS、Android OS向けアプリの開発、アップデートを同時に進めながら開発工数は3割減へ――。セイコーエプソンのアプリ開発効率化を成功に導いたのはどんなソリューションなのか。

» 2015年08月20日 13時00分 公開
[高橋美津ITmedia]
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 近ごろ、来日したある米ネット企業のCEOが「今後、全ての企業は“ソフトウェア企業”になる」と発言して話題を集めた。この言葉が多くの人から共感を得たのは、インターネットやモバイルデバイスが、社会に「当たり前」のものとして根付きつつあるという実感があるからだろう。

 企業は顧客や消費者とのコミュニケーションに、インターネットやモバイルデバイスを“当たり前のもの”として使い始めており、その波はこれまでITとの関わりが薄かった製造業や小売業にも押し寄せている。

 しかし、製品の一部として、あるいはマーケティングツールとして企業が自らモバイルアプリの開発や配信を手掛けるようになると、大きな壁に直面することになる。それは「アプリ開発にかかる手間やコストの増大」という問題だ。

 優れたUIを備え、ユーザーをワクワクさせる機能強化を図りながら、マルチプラットフォーム対応のアプリをセキュアに配信し続けるためには、アプリ開発の効率化が欠かせない。しかし、アプリの数や対応するOSのバージョンが増えると、開発に掛かる工数や雑務が増えるため、対応に伴うコストがかさむだけでなく、本来、注力すべき“品質の向上”に向き合う時間が犠牲になることすらあるという。

 こうした課題を解決するためのソリューションとして、今、注目を集めているのが、マルチプラットフォーム対応のモバイルアプリ開発、運用基盤だ。モバイルアプリ開発プラットフォームの導入で、3割近いアプリ開発の工数削減に成功した「セイコーエプソン」の担当者に、導入の背景と効果について聞いた。

ゴルフスイング解析システム向けのアプリ開発で感じた課題

Photo M-Tracer For Golf(ダミー画面)

 「セイコーエプソンのセンサーが持つ性能を、一般の方々に分かりやすく示せると考えたことから、ゴルフアプリの企画・開発がスタートしました」――。一般ゴルフプレイヤー向けのスイング解析システム「M-Tracer For Golf」の開発を手掛ける、ウエアラブル機器事業部S企画設計部部長の加納俊彦氏は、アプリの開発背景についてこう話す。

 M-Tracer For Golfは、ゴルフのスイングをさまざまなセンサーから得た情報を基に分析し、正しいフォームに改善するための手助けをするサービス。ゴルフクラブに取り付けるセンサーデバイスと、デバイスから取得したデータを分析し、ユーザー向けに可視化して提示するiOS/Android対応のモバイルアプリで構成される。

 2014年2月に、フルスイング対応版の「MT500G」を発売し、同年10月には強化版の「MT500GII」をリリース。2015年6月にはパッティングの解析に対応した新モデル「MT500GP」を発売するといったように、短期間のうちにラインアップを拡充している。

 ゴルフクラブに装着するデバイスは、角度や速度、直線加速度のセンサー群を内蔵しており、スイングの状態を高精度、高頻度で取得できる。モバイルアプリ側では、センサーが取得したデータを分析し、スイングの様子を詳細な3Dモデルや時系列に沿ったアニメーション、グラフとして提示。ユーザーは、こうした情報を見ながら自分のスイングを改善できるというわけだ。

Photo パターを打点や方向、ストロークなどさまざまなセンサー情報を元に分析する「M-Tracer For Putter」は6月に登場したばかりの新アプリ
Photo M-Tracer For Golfの開発を指揮するウエアラブル機器事業部S企画設計部部長の加納俊彦氏

 製品化にあたっては、「センサーから取得したデータの見せ方」が重要だったと加納氏は振り返る。ゴルフを楽しむ人たちは必ずしもITに詳しい人ばかりではない。そのため、いかに見やすく使いやすく、分かりやすいモバイルアプリ(ソフトウェア)を開発するかが重要だったという。こうした背景もあって、M-Tracer For Golfのアプリ開発は、初期版の開発段階から苦労が絶えなかったそうだ。

 「フルスイング版(初期版)のアプリ開発には苦労しました。当時はiOS版、Android版をそれぞれ別に開発しており、最初はiOSのみの提供でスタートしました。Android版は後追いで開発し、リリースは数カ月遅れの提供だったのです。また、このアプリはユーザーのフィードバックを得ながら、短期間でバグフィックスや機能改善を続けていく性質のものであり、今後のことを考慮しても、クロスプラットフォーム向けアプリ開発の生産性と保守性を高めていく必要性を強く感じていました」(加納氏)

フロントに加え「バックエンド」の環境が整っていることが重要

Photo セイコーエプソン ウエアラブル機器事業部S企画設計部主任の北田成秀氏

 アプリ開発の工数が予想以上だったことから、同社では「マルチプラットフォーム向けモバイルアプリ開発、運用基盤」を検討し、IBMが提供する「IBM MobileFirst Platform」(以下、MobileFirst)の導入を決めた。

 現在、クロスプラットフォーム対応のアプリ開発ツールは、複数のベンダーから提供されている。その中からMobileFirstを選択した理由について、セイコーエプソン ウエアラブル機器事業部S企画設計部主任の北田成秀氏は「フロントのアプリ開発だけでなく、今後求められるモバイルアプリの品質や運用体制の要件を考えたとき、システム全体での優位性が高いと判断した」と話す。

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