F1コンストラクターズ3位に復活したWilliams、次の一手はネットワークの強化Computer Weekly

低迷していたWilliamsだが、2014年からコンストラクターズ3位圏に復活。さらに上を目指すため、同チームは高速ネットワークを導入した。その導入効果は、意外なところにまで及んでいるという。

» 2015年09月16日 10時00分 公開
[Alex ScroxtonComputer Weekly]
Computer Weekly

 2015年、F1チームのWilliams Martini Racing(以下、Williams F1)は、英国最大手の電気通信事業者であるBTとスポンサー契約および主要ネットワークサービスの提供を受ける契約を交わした。主要ネットワークサービスには、トラックサイド担当チームとファクトリー常駐チームを結ぶ高速ネットワークも含まれる。

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 2015年の世界選手権(ワールドチャンピオンシップ)では、Williams F1は圧倒的な大本命であるMercedes AMG Petronasを多少なりとも脅かせそうな位置を維持している。Williams F1と似たような位置にいるのは、恐らくScuderia Ferrariだけだ。F1界のベテランエンジニアでありWilliams F1のIT担当チームに所属するグライム・ハックランド氏は、チームがその位置で戦い続けることのプレッシャーにさらされている。

 ハックランド氏は、2014年1月にライバルのLotus F1 Teamから移籍した。以来、同氏は米Microsoftの「Microsoft Dynamics」を採用したシステムと、チーム専用のネットワーク環境の整備に力を注いでいる。

大容量で迅速にさばけないデータ

 同氏は、オックスフォードシャー州のグローブにあるWilliams F1の本部に移った途端、古巣のLotus F1 Teamで経験したネットワークの問題にまたもや直面した。

 「当時(サーキットから)ファクトリーへのデータの転送は、リアルタイムではできず、予定を組んでまとめて実行していた。ピットストップ中の動きを分析するためのビデオも、(すぐには)送信できなかった。例えば、金曜日のフリー走行の映像をその日の夜に徹夜で送信して、その映像に対するフィードバックを土曜日にまた送信する、という調子だった」と同氏は説明する。「限られた帯域幅の中でやりくりするために、われわれエンジニアの能力が文字通り削られていた」(ハックランド氏)

 しかも、ハックランド氏の頭痛の種はビデオだけではなかった。F1エンジニアは持てる技能の全てを注ぎ、高度な技術を駆使して設計したマシンのあらゆるパーツにさらに手を加えて最善の結果を出そうとする。その結果、エンジニアがある瞬間ひらめいた改良を誰かに相談することもなくいきなり組み込んでしまうことは珍しくないという。

 エンジニアたちは、そんなパーツを設計する際にCADソフトを使う。しかし不運なことに、Williams F1のエンジニアチームはCADファイルをそのままの形式で転送することができず、PDFに変換してサイズを縮小せざるを得なかった。

MPLSネットワーク

 Williams F1は、2014年シーズンの最終ステージで、BTと共同で取り組むパイロットプロジェクトに着手。その後、2015年5月にバルセロナで開かれたスペイングランプリの直前に、BTとの本格的なパートナーシップを確立した。

 このパートナー契約は、長期的にBTの高速ネットワークサービスを利用して、セキュアで高速な通信やコラボレーション環境と携帯機器でも安定した通話が可能なクラウドベースの音声サービスを実現することを目指している。

 Williams F1は、BTとのパートナーシップに基づいて進める最初の試みとしてネットワーク接続の課題に対処することを選んだ。現在は、(ファクトリーが置かれている)グローブとF1レースの開催地との間で100MbpsのMPLS(Multi-Protocol Label Switching)ネットワークを展開する仕組みを確立した。F1レースの開催地は、豪メルボルンやシンガポールなどの遠い国の都市から、Williams F1の本拠地からわずか40マイル(約64キロ)しか離れていないSilverstoneサーキットに至るまでさまざまだ。

 MPLSネットワークの場合、データパケットはレイヤー3のルーティングレベルではなく、レイヤー2のスイッチングレベルでフォワーディングされる。そしてデータパケットは、事前に定義されたパスを経由して目的地に到達する。つまり、ネットワークの所有者は、パケットが目的地に到着するまでの最適なルートをあらかじめ決定しておくことができるのだ。言い換えると、BTなどのサービスプロバイダーは、レイテンシ、ジッタ、パケットロスなどに関してSLA(サービス品質保証契約)で定めた条件を満たすようなパスを事前に定義すれば、顧客に提供するサービスの質を向上させることができる。

 Williams F1の場合、BTがアクセラレーション機能を利用してネットワークインフラの最適化をさらに進めた。これはトラックサイドチームとファクトリーとの間のレイテンシの問題の解消に役立った。

 Williams F1は、1回のレースで60G〜80Gバイトのデータを生成するが、現在はこのデータをネットワークで安全にファクトリーに送信できる。従ってエンジニアは現地にいてもファクトリーにいても、データの共有や分析、コラボレーションを進めて、必要があればすぐに変更を加えてマシンのパフォーマンスを最適化できるようになった。フリー走行、予選、決勝のどの段階にあっても、マシンのパフォーマンスを改善できる。

 「100MbpsのMPLSネットワークを開設したおかげで、サーキットからファクトリーまでの安全なリンクを確立して、データを全てリアルタイムで送信できるようになった。今ならピットストップの分析結果を1時間以内に(ファクトリーから現場に)返すことができる」とハックランド氏は話す。

小さな改善の積み重ね

 Williams F1のこのようなアプローチは、自転車ロードレースのプロチームTeam Skyが(ツール・ド・フランス優勝という、チーム結成時の目標を達成した)ブラッドリー・ウィギンスやクリス・フルームといった選手の能力を伸ばすために実行した方法に似ている。これは言ってみれば、あらゆる角度から見て気付いた「今できること」を少しずつ積み重ねるやり方だ。これは、ピットストップの分析の成果だ。ネットワークがその真価を発揮して(高速通信を実現したことで)この積み重ねを支援している。

 「現在われわれが目指しているのは、ピットストップの時間を2.5秒に近づけたいということだ。本音を言うと2.2秒を達成したいと考えている。だからわれわれは常に、ピット内のメカニックの立ち位置やマシンの停止位置など、あらゆる要因を見直して、改善できるポイントを探している」とハックランド氏は語る。

 トラックサイドのネットワーク環境を刷新したことで、Williams F1では他の分野にも効果が波及した。以前は4ラックのサーバ機材を使っていたが、今はコンバージドサーバ、ストレージ、ネットワーク機器が2ラックに収まるようになったので、狭苦しいピットガレージの空間を少しではあるが解放することができたという。

 一方、グローブのファクトリーでは、サーバとストレージに40ギガビットイーサネット(GbE)のネットワークと10GbEのリンクを配備し、BTの仮想電話サービス「One Phone」への移行を開始した。競技の制約を受ける中でモータースポーツの有力チームを運営する立場としては、移行が順調に進んでいることを確認するのは重要だと、ハックランド氏は語る。この移行作業は2015年の夏の終わりには完了する見込みだ。

 「2015年8月に新しいマシンの製造を始める計画を進めているので、それまでにはネットワークが想定通りのパフォーマンスで運用できるようにしたい」とハックランド氏は意気込みを語る。「新しいネットワーク環境下で製造するマシンで、来シーズンは大きな結果を残せると期待している」

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