Microsoftとの提携はLotus F1チームに勝利をもたらすのかComputer Weekly

Microsoftと提携し、SkypeやMicrosoft Dynamicsを活用するLotus F1チーム。データの収集と分析に注力する同チームの努力は実るのか?

» 2015年09月02日 10時00分 公開
[Clare McDonaldComputer Weekly]
Computer Weekly

 2015年7月、F1イギリスグランプリが開催された。観客にとってこのイベントも過去のことで、少なくともこの先1年は話題に上らない。だが、英Lotus F1チーム(以下、Lotus)にとっては、マシンを可能な限り速く、効率的で、低コストなものにするために、またチームの運営も迅速かつ効率的でコストを抑えたものにするために、できる限り多くのデータを分析する忙しい日々が始まっている。

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 Lotusはマシンの性能を最大限に引き出すため、2012年から米Microsoftと提携。「Microsoft Dynamics」のクラウドツールとコラボレーションツールを利用している。

サーキットとラボ間のデータ転送

 「チームの目標は勝利しかない」とLotusの最高執行責任者、トーマス・メイヤー氏は話す。「そのため、データが非常に重要な意味を持つ」

 Lotusのメンバーは500人。その半分がエンジニアで、2台のLotus F1マシンの設計と走行を担当している。マシンには各種センサーが約200個搭載されており、1000件以上のデータを取り込んでいる。そのデータは全て収集、監視され、マシン改良のために分析される。

 Lotusはモビリティを重視しており、全てのデータがそれを必要とするエンジニアのもとに配信される。そのため、ピットでもラボでも、同じデータを確認できる。他に、Microsoftの「Skype」などのコミュニケーションツールも使用して、できる限り多くのデータを共有するよう努めている。

 大量のデータ転送には、ネットワークが重要になる。そのため、マシンからピットに直接送信するのは特に重要なデータに限定し、残りのデータは後でマシンからダウンロードする。

 マシンからのライブストリームは、ピットとラボの両方に送られる。エンジニアはそのデータを約2000の統計に基づいて処理し、マシンの性能を調査する。さらに、マシンのエンジンにはカメラが搭載されている。エンジニアはSkypeでそのカメラを呼び出して、エンジンの状態を確認することもできる。

 この統計を使用して、新しいマシンの仮想模型が作られる。実物の60%のサイズのこの仮想模型で風洞実験を行い、路面の状況をシミュレーションする。

 風洞実験用の模型の多くは3回しか使用しない。3回実験すれば、マシンが期待する結果に達するかどうかが明確に分かる。

 場合によっては、400もの模型を使って実験することもある。ただし、風洞の使用とそのデータ処理に使える時間は、FIA(Federation Internationale De L’Automobile)のレギュレーションで規制されている。

 コースから収集したデータがそろうと、シミュレーション用の実物大模型を作成してテストし、強化する。

 「マシンに関するデータは何でも監視する」とメイヤー氏は説明する。

 「収集するデータが多くなり、分析が詳細になるほど、データを適切に関連付けられるようになる」

ビジネスデータを利用して時間とコストを節約

 F1にとって最も重要なのが時間だ。マシンを構想してから実現するまでに費やせる時間はわずかしかない。

 ラピッドプロトタイピングやシミュレーションなどのテクノロジーの導入で、F1の変化のスピードは著しく向上した。また、データを活用することにより、設計には全く異なる視点からのアプローチが取られるようになっている。このような「仮想」レースマシンを利用することで、何千もの部品をコンピュータ上で調整してから、実際に開発、調整できるようになり、開発時間とコストが削減された。

 「これはデータがあって初めて可能になることだ。データによってチームのアプローチが変化している」とメイヤー氏は話す。

 しかし、チームの限られた予算を最大限に有効活用し、効率的に運営していくために非常に重要になるのは、ビジネスデータだ。

 「運営に関する意思決定には、財務に関する情報が必要になる。Lotusは、この情報をMicrosoft Dynamicsで管理している」とメイヤー氏は話す。

 Lotusは、財務、経費、予算、調達、人事、給与などのあらゆるビジネス分野でMicrosoft Dynamics AXを使用している。

 以前のシステムは、ユーザーインタフェースが不格好だった。また、部門ごとに別のシステムを使用していたため、部門ごとにコストが発生していた。

 Dynamics AXの導入により、各システムが統合された。また、部門のサイロ化が防止され、イノベーションが促され、作業の機敏さが向上した。

 チームは、レースによって異なるが、2週間のイノベーションサイクルに基づいて活動している。そのため、Microsoft Dynamicsを使用して時間主導のプロジェクトの追跡を行っている。

 「これは1回限りのプロセス改善ではなく、イノベーションのロードマップだ」とメイヤー氏は言う。

 チームは今後、継続的な開発と、過去と現在のデータ比較を行い、最終製品に関係なく、他の企業と同様にイノベーションを促進していく。

自動車業界の発展

 「情報が多ければ適切な意思決定ができるというものではない。入手した大量の情報には、ビジネスインテリジェンスが必要になる」と説明するのは、MicrosoftのDynamics AX担当ジェネラルマネジャー、クリスティアン・ペデルセン氏だ。

 イノベーションということでは他の企業と同じだが、その速度ははるかに速い。ペデルセン氏によれば、MicrosoftはLotusなどの企業と密接に連携して、Microsoftテクノロジーによって企業の未来を形作っているという。

 MicrosoftのエンジニアはLotusのラボで作業し、チーム間の「技術提携」を深めている。F1マシンはビッグデータを使用するため、本質的にはモノのインターネット(IoT)デバイスである。ただし、他のIoTとは異なり、F1は孤立した業界だ。

 かつて、マシンでセンサーと呼べるのはマシンに乗り込むドライバーだけだったが、今ではマシンの至るところにセンサーが搭載されてデータを収集している。このデータをサードパーティーのデータと組み合わせると、レース開始前でもレースの結果を判断できるという。

 ここで活躍しているのが機械学習だ。天気、コースの気温、摩擦などに関する過去の情報、現在の情報およびサードパーティーの情報に基づいて風洞とコースの相関関係を明らかにし、マシンのシステムで自動的に予測が行われる。

 このようなテクノロジーは、パーソナライズドキー、保険用ブラックボックス、予測機能付きワイパー、スマートフォン制御ナビゲーションシステムなどの形で一般向け自動車市場に取り入れられている。

 「他のチームよりも少ないコストで、他のチームを上回る。それがLotusの勝負だ」とメイヤー氏は締めくくった。

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