データの保存先は、もうクラウドでいいよね。……本当にそうでしょうか。いつでも、どこでも、どのデバイスでも便利に使えるようになる大きなメリットがある半面、デメリットもあります。今回は“データ永久保存時代”の観点で、あえてその盲点をひもときましょう。
ストレージ技術は、クラウド/IoT時代を迎えて大きく役割を変えつつあります。
様々な「非構造化データ」が無秩序に保存されてゆき、さらにかなり長期に保存する必要が出てきました。実は最新のデータセンターにおいてもデジタルデータの長期保存は大きな課題で、様々な新しい技術、新しい管理方法が考えられてきています。これはごく身近な個人のデータもそうです。スマホで撮った写真や動画、家族とのやりとりや記録、日記的メモやSNSのログなど、これらはいわばライフログ(人生の記録)になりつつある自分だけの大切なデータです。これらを数十年、百年単位で残していくにはどうすればよいのでしょう。
この連載は「そのようなビッグデータ時代に最適なストレージとは何か」がテーマです。今後、トランザクションデータとアーカイブデータの二極化が起こります。特に無秩序に途方もない量のデータが生成されるこれからの時代には、低コスト、低消費電力、高拡張性、高検索性のストレージが求められます。そんな課題の解決方法を、最新IT技術も交えてできるだけ分かりやすく解説していきます。
前回は大切な写真や動画といったデジタルデータをどのように保存すればよいかについて解説しました。クラウドストレージサービスもその選択肢の1つです。
クラウドストレージは、気軽に保存できて、必要な時にどこから、どの端末でもアクセスできる。さらに面倒なハードウェア管理も自分ですることはない──。やはり素晴らしいサービスに思えます。しかし、クラウドの使用にはいくつか注意も必要です。今回はあえてこの「盲点」をひもときましょう。
個人向けのSNSや画像サービスの多くは無料で使えます。しかし、提供社側からすれば、当然ですがあくまでも営利目的のものです。アップロードしたものについて、「サービス事業者は自由にユーザーのアップロードした写真や位置情報などをデータ分析などに利用ができますが、アップロードしたデータの安全な保存義務などは持ちません」というケースが多いと考えられます。
ともあれ、ご自身が使っているサービスの規約を改めて読んでいただくことを勧めますが、呪文のような難解な表現で記述されている「規約を読み解く」のは、一般の人にはかなり難しいです。またデータが永続的に保存されている保障もないでしょうし、場合によっては一時的に(いきなりメンテナンス中になる、などです)、または将来的に同じサービスを受けられなくなることもあり得ます(急にサービスが終了してしまう、などです)。
以前、北米クラウドストレージサービス老舗 Nirvanixのクラウドストレージサービス「Nirvanix SDN」が停止したことがありました。その通知が直前に送られてきてユーザーが混乱し、問題になりました。データを移動(退避)しようにも、時間がまるで足りないほど直前で、その後はサービスがオフラインになってアクセスできなくなるケースでした。
しかしそのサービスにおける「規約・約款」に反したわけではない。もっとも、データを退避できたとしても、多くの人が一斉に実行したならばネットワーク回線がパンクしてしまいますので、これはこれで別に混乱を招いていたかもしれません。
ともあれ、クラウドサービスが一般化しつつありますが、大量のデータを預けておくのはリスクもあることを理解しておく必要はあります。
著作権はもちろんデータの作成者に帰属します。所有権も同じと考えてよいでしょう。
ところが使用権や再利用権、さらにはオリジナルを加工したものの使用権は、意外かもしれませんがアップロード先、つまりサービス事業者側にある例は多いです。「お前のものはオレのもの、俺のものもオレのもの」というルールです。
逆に削除したい場合はどうでしょう。これは見た目としては普通に可能なケースがほとんどと思いますが、複製がどこかで残っていることもあるでしょう。
また、無料のクラウドサービスならば、多くの場合は容量の制限があります。無料版は容量**Gバイトまで保存できます、というものですね。
しかし、近年の写真や動画データサイズは大きくなる一方です。無料のまま使いたいので、複数のクラウドサービスを併用して保存する人もいるかもしれません。……しかし、これではなんだか本末転倒です。どこに何を保存したのかは日時の経過とともに記憶が薄れてくるでしょうし、そもそも保管できる期間が保証されていないケースも多いので、仮にいきなり削除されてしまっても……規約にある以上、文句は言えません。もちろん、そんな無茶なことをする事業者はめったにありませんが。
2012年6月、日本の企業向けクラウドストレージサービスで発生した大規模な障害により、ユーザー企業のデータが全部消えてしまったことが事件がありました。
前述した個人向けの無料サービスと違い、有料の法人向けサービスではありますが、当時の同社レンタルサーバサービス約款では、「本サービスが本質的に情報の喪失、改変、破壊などの危険が内在するインターネット通信網を介したサービスであることを理解した上で」顧客が自らの責任でデータバックアップを行うものとし、顧客がバックアップしなかったことによる損害について同社は何ら責任を負わないとしていました。
つまり、多くのデータは残念ながら……だったそうです。改めて、法人サービスだからといって安心はできず、最終的には自分で守るしかないということになるのでしょうか。
では、自分でデータを守るにはどのようにするのがよいのでしょう?
最も簡単な方法は、複数のコピーを作成することです。
では、いくつ作ればよいのでしょう?
……次回は、そんなコピーの「数」と「質」について解説してみたいと思います
(続く)
日本ヒューレット・パッカード株式会社 ストレージテクノロジーエバンジェリスト。ストレージ技術の最先端を研究、開発を推進。IT業界でハード設計10年、HPでテープストレージスペシャリストを15年経験したのち、現在SDS(Software Defined Storage)スペシャリスト。次世代ストレージ基盤、特にSDSや大容量アーカイブの提案を行う。テープストレージ、LTFS 関連技術に精通し、JEITAのテープストレージ専門委員会副会長を務める。大容量データの長期保管が必要な放送 映像業界、学術研究分野の知識も豊富に有する。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.