「コグニティブコンピューティング」と呼ぶAI領域のテクノロジーに注力するIBM。だが「AIとは目的が違う」と言う。そこに同社のしたたかなビジネス戦略があるようだ。
「コグニティブ(認知型)コンピューティングはすべてのビジネスに関わるテクノロジーである」
こう語るのは、米IBM基礎研究所バイスプレジデントでこの分野の研究開発を牽引するダリオ・ジル氏だ。日本IBMが10月8日、同氏の来日を機に開いた記者説明会での発言である。
コグニティブコンピューティングとは、人間が話す自然言語を理解し、根拠をもとに仮説を立てて評価を行い、コンピュータ自身が自己学習を繰り返して知識を蓄えていくことができるテクノロジーを活用したコンピューティングの新しい概念である。IBMは今、その代表的なサービスである「Watson」の普及拡大に注力している。
Watsonの概要や展開については、8月3日掲載の本コラム「Watsonエコシステムに注力するIBMの深謀遠慮」を参照いただくとして、ここではコグニティブコンピューティングをめぐるジル氏の会見での発言から、IBMのこの分野における戦略を探ってみたい。
まず、コグニティブコンピューティングが求められる理由について、ジル氏は次のように説明した。
「世界中でさまざまなデータが急速に増えつつあるが、今あるコンピュータではその8割を活用できないのが実態だ。それを活用できるようにするにはどうすればよいか。そのニーズに応えるためにつくり上げたのが、コグニティブコンピューティングだ」
ただ、ジル氏によると、そこで最も重要なポイントとなるのが「コグニティブコンピューティングと人間の関係」だ。例えば、Watsonが現在活用されつつある医療分野においては、Watsonはすでに2000万件を超える研究論文を読み込んでおり、さまざまな質問に対して適切な回答を行えるようになりつつあるという。
一方、医師が年間に読める研究論文はせいぜい200件程度であることから、意思決定や活動のバックボーンとなる知識はWatsonのほうが圧倒的に蓄積していることになる。とはいえ、実際に患者の診断や治療を行うのは医師であることから、Watsonは豊富な知識を活用して医師をトータル的にサポートするのが望ましい。これがWatson、つまりはコグニティブコンピューティングのあるべき姿だと、ジル氏は強調した。
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