八子氏は製造業におけるIoTの可能性は大きいとしながらも、大規模なシステム改修が求められるために、すぐには実現しにくいと指摘する。
「製造業は私も注目している業界ですが、製造業でIoTを導入しようとするとやらなければならないことが多く、意思決定が遅くなりがちなんですね。もともと日本の製造業はファクトリー・オートメーションが進んでいて、工場内のモノにセンサーを付けるというところまでであれば既にやっているんです。
ただ、それで実現しているのは、あくまでOT(Operational Technology)レベルの話です。すさまじい量のデータは取得できているので、それを分析すれば新たにできることはたくさんあるのですが、IT部門が現場に積極的に関与しにくいことなどからOTとITが連携していないのです。また、全てをつなごうとすると、工場を超えて、取引先までデジタル化しなければという話にもなって、すぐには実現が難しいという事情もあります」(八子氏)
一方で小売・流通業などでは、現場のIT化が進んでいるため比較的IoTを導入しやすいという。来店者のスマートフォンにクーポンを配信するO20(オムニチャネル)などの事例からも分かるように、消費者の購買行動に結び付きやすいソリューションが多く、売上増という直接的な効果が見えやすいのも、導入を進めやすい要因だろう。
このほかにIoT化を進めやすい領域として、八子氏は「重厚長大型産業」を挙げた。
「端的に言うと、大きなお金が投下されるところはIoT化しやすいのです。よく“IoTの成功例”といわれるGEやコマツも、飛行機のエンジンや大型建機など、1つあたり数千万円するようなモノを扱っているので、それぞれにセンサーをつけてネットワークでつないだとしても、大きなコストアップにはならないんですよ。他にも、ダムや道路などの社会インフラの管理や監視というのも、1件あたり数百億のお金が動きますので、IoT化のコストを十分吸収できるというわけです」(八子氏)
特に日本においては、1964年の東京オリンピックに合わせて整備された首都高速道路をはじめ、さまざまな社会インフラが老朽化し、更新の時期を迎えている。それらをどのように刷新していくかも重大な問題だが、このインフラの保守にこそIoTの出番がある。
例えば、高速道路一つとっても全国に広がる全ての道に人が出向いて確認するのは現実的ではないが、その代わりにセンサーがデータを送信すれば、コストも削減できる上、対応までのスピードも早まる。これも大きなビジネスチャンスといえるだろう。
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