OJTを成功させる3つのアプローチITソリューション塾

新人へのOJTを成功させるには、その目的と方法を明確にしておくことが重要です。育成のヒントとなる3つの「OJTアプローチ」を紹介します。

» 2016年05月06日 17時00分 公開

 新入社員の研修が終わると、OJT(On the Job Training)が始まります。業務実践を通じて体験的に育成することを目的としたOJTですが、果たしてその目的は達成できるのでしょうか。

 そもそも、OJTの目的を明確にせず、その方法も曖昧なまま、「配属」という形式で上司や育成担当の先輩に「丸投げ」するだけになっていることも珍しくありません。育成を任された人も、任せる側も、「自分も経験したことだからできるはず」という暗黙の了解のもと、具体な方法や達成基準を明確にすることなく、育成担当者それぞれの経験知と自助努力に任せているのです。これでは、苦労して優秀な人材を採用しても、育つか育たないは「運まかせ」「誰に付いたか」に依存してしまいます。

 研修は「育成」のきっかけを与える機会にすぎません。配属された組織が「育成」の現場です。ならば、育成の最初の機会となるOJTは、任された人の力量や自助努力に委ねるなどというリスクは犯すべきではないのです。育成する人にしっかりとした目的意識、方法論、達成基準を与え、仕事として育成を担う自覚を与えなくてはなりません。しかし、なかなかそうなっていないのも現実です。

 では、どうすればいいのでしょうか。次に紹介する3つの「OJTアプローチ」がヒントになるかもしれません。

OJT実施の順序

フォワードチェイニング

 「失敗を乗り越えて成功を強いる」アプローチです。顧客開拓、案件獲得といったベテランでも難しい営業活動の初期段階から、入金確認といった簡単な仕事へと、業務の流れに沿って最初から一貫してやらせる方法です。この方法は、次のような状況を生み出します。

  • 実践経験がないので、アポ取りに苦労する。
  • 仮にアポが取れても、商品や会社についての知識がなく、自信を持って話ができない。
  • 高いハードルを前に、失敗を繰り返し、成功体験をなかなか得ることができず、長期間にわたり挫折感を味わい続けることになる。

 このように「苦労」を強いることで、「いつかはゴールに到達したい」という希望を持たせつつ、何度も失敗を体験させ、これを克服させる手法ともいえるでしょう。

ランダムチェイニング

 「先輩のアシスタント。成長は本人に任せる」というアプローチです。計画性を持たず、先輩の営業の仕事に合わせ、先輩の仕事の一部を任せる形で、ランダムにいろいろな仕事を体験させる方法です。この方法は、次のような状況を生み出します。

  • 広く浅く全体を見渡すことができる。
  • 一つのプロセスを徹底することがなく、習熟することは難しい。達成感を得にくい。
  • 一貫した仕事の流れを経験していないにもかかわらず、OJTが終わるとフォワードチェイニングを強いられる。これが大きな負担を強いる。

 このやり方は、実質的に「放置放任」と変わりません。そのため成長は、本人任せ、運任せとなりかねないリスクをはらんでいます。

バックワードチェイニング

 「成功を積み重ね、成長を実感させる」アプローチです。まずは、ハードルの低い検収や入金などを任せ、成功を体験させます。それから徐々にハードルの高い仕事へと範囲を広げていく方法です。この方法は、次のような状況を生み出します。

  • 検収や入金は、成功の結果である。その仕事を任せることで、成果と成功の喜びを共有する。
  • 徐々に難しい仕事を経験させ、成功の体験を蓄積させながら、一連の業務を理解させる。
  • 常に1つ1つのプロセスを完結させ、「やり抜いた」という充実感を持たせ続ける。

 このやり方は、「目的を達成できた」という成功体験を重ね、成長を実感させながら能力を高めることができます。

OJTも戦略あってこそ

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 ランダムチェイニングは論外しても、フォワードチェイニングとバックワードチェイニングはともに有効な手法といえるでしょう。なお、ベテランであればあるほど、「自分はフォワードチェイニングで育てられた」という意識があり、それがOJTの「常識」と考える傾向があるようです。

 しかし、それが今の新人たちにそのまま通用するかどうかは、慎重に考えた方がよいでしょう。人によっては、バックワードチェイニングで丁寧に体験を積ませる方がよい場合もあるかもしれません。

 OJTの前半はバックワードチェイニングを適用し、ある程度自信を付けてきたらフォワードチェイニングでやってみるというのも一つの方法かもしれません。

 育成を任されている方は、あらためて自分のアプローチを冷静に見つめてみてはどうでしょうか。そして、育成対象となる新人の「人となり」を考え、あるいは「時期」を考えながら、意識的に最適なアプローチを選択してはどうでしょうか。

 育成もまた戦略があってこそ、成果を確実なものにできるのです。

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