SDSの特徴やメリットを説明してきましたが、実際に利用している企業では何を期待して導入に至ったのか、またその効果はどれほどだったのかは気になるところです。今回は一斉導入に踏み切った欧州のユーザー企業事例を紹介します。
これまでの連載で紹介してきた通り、ソフトウェア定義のストレージ(Software Defined Storage=SDS)やSDSのアーキテクチャは、運用の効率化と経済性それぞれの点でメリットがあります。今回と次回は実際に導入したユーザー企業の例を紹介したいと思います。今回は実名を挙げて紹介できる海外SDS事例からスイスの大手独立系通信事業者を、次回は一気にSDSを導入しなかった事例として国内専門商社のケースを紹介します。
スイスに本拠を置くSunrise Communicationsは、欧州でも最大規模の通信事業者です。モバイルや有線の電話網に加えて、ISPとしても多数のエンドユーザーに対してサービスを行っています。2000年代以降、急激に業績とサービスを拡大してきた結果、ITインフラは主要5カ所のデータセンターにまたがり、複数のベンダー製品が混在するマルチベンダー環境になりました。
しかし、ITシステムの運用を管理する専任担当者はたったの10人であり、「今後もこの規模のメンバーで対応ができること」という条件がありました。そのため、ストレージとはDAS(ダイレクトアタッチトストレージ)接続が中心だったところを共有型にしたり、人手のかかるテープ装置は仮想テープ装置(VTL)に変更して自動運用ができるようにしたり工夫をしつつ、高度に集約された仮想化基盤を構築してきました。社内システムだけで1400VM、VDIでは800ユーザー規模のシステムを運用していたのです。
その一方で、システムの集約はサービスのダウンタイム調整が難しくなるという側面を持ちます。24時間体制でサービスを行う企業にとって、この点はビジネスの競争力を維持するためにも重要な課題でした。また、地理的に離れた複数のデータセンターを持つこと自体は事業継続対策(BCP)や災害復旧(DR)の観点から好ましいものではありましたが、近年では保持・管理するデータ量も数ぺタバイト級に及ぶことになり、経営面からの懸念の他、採用する製品や技術についてもコストや将来の投資との親和性など、多岐にわたる課題が目立つようになってきました。
これらの課題を整理すると、以下の5つにまとめられます。
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