第7回 SDS導入のきっかけと効果、一斉導入した欧州通信事業者の場合データで戦う企業のためのIT処方箋(1/2 ページ)

SDSの特徴やメリットを説明してきましたが、実際に利用している企業では何を期待して導入に至ったのか、またその効果はどれほどだったのかは気になるところです。今回は一斉導入に踏み切った欧州のユーザー企業事例を紹介します。

» 2016年05月17日 07時00分 公開
[森本雅之ITmedia]

 これまでの連載で紹介してきた通り、ソフトウェア定義のストレージ(Software Defined Storage=SDS)やSDSのアーキテクチャは、運用の効率化と経済性それぞれの点でメリットがあります。今回と次回は実際に導入したユーザー企業の例を紹介したいと思います。今回は実名を挙げて紹介できる海外SDS事例からスイスの大手独立系通信事業者を、次回は一気にSDSを導入しなかった事例として国内専門商社のケースを紹介します。

直面した課題

欧州の大手通信事業者のSunrise Communications(画像は同社サイトより引用)

 スイスに本拠を置くSunrise Communicationsは、欧州でも最大規模の通信事業者です。モバイルや有線の電話網に加えて、ISPとしても多数のエンドユーザーに対してサービスを行っています。2000年代以降、急激に業績とサービスを拡大してきた結果、ITインフラは主要5カ所のデータセンターにまたがり、複数のベンダー製品が混在するマルチベンダー環境になりました。

 しかし、ITシステムの運用を管理する専任担当者はたったの10人であり、「今後もこの規模のメンバーで対応ができること」という条件がありました。そのため、ストレージとはDAS(ダイレクトアタッチトストレージ)接続が中心だったところを共有型にしたり、人手のかかるテープ装置は仮想テープ装置(VTL)に変更して自動運用ができるようにしたり工夫をしつつ、高度に集約された仮想化基盤を構築してきました。社内システムだけで1400VM、VDIでは800ユーザー規模のシステムを運用していたのです。

 その一方で、システムの集約はサービスのダウンタイム調整が難しくなるという側面を持ちます。24時間体制でサービスを行う企業にとって、この点はビジネスの競争力を維持するためにも重要な課題でした。また、地理的に離れた複数のデータセンターを持つこと自体は事業継続対策(BCP)や災害復旧(DR)の観点から好ましいものではありましたが、近年では保持・管理するデータ量も数ぺタバイト級に及ぶことになり、経営面からの懸念の他、採用する製品や技術についてもコストや将来の投資との親和性など、多岐にわたる課題が目立つようになってきました。

これらの課題を整理すると、以下の5つにまとめられます。

  • データのマイグレーション:新しいプラットフォームや技術基盤に対してダウンタイムなしで移行できない
  • BCPとしての懸念:各データセンターやシステムにおいて展開するサービスごとに専用の仕組みを作りこんできた経緯から、利用するアプリケーションがバラバラで、要件の定義方法や操作方法に一貫性がなく、確実な事業継続が担保できない(または追加コストや時間がかかる)
  • ベンダーロックイン:利用しているストレージベンダーそれぞれの製品で個別ライセンスを購入してきた結果、ランニングコストが高額になるだけでなく、異なるベンダー製品への移行に制約が生まれている
  • 多岐にわたるサービスに対するSLAの達成:事業サービスごとに必要な要件を定義しているが、最終的に作り込んだハードウェアに紐づいた要件になっており、汎用的な指標がなくリソースの相互活用ができない
  • 今後発生するさまざまな新事業に対応できる柔軟性を持つIT基盤:競合がひしめく欧州地域において、業績を拡大するためには新規サービスの展開や既存サービスの継続的な改善が必須。これまでのサービスごとに専用のITシステムを用意するやり方では、拡張や変更、転用といったすばやい対応ができない
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