MSクラウドの優位性はどこにあるのかMicrosoft Focus(1/2 ページ)

2018年度に、クラウドビジネスで200億ドルの売上を目指すという目標を掲げ、着実に成長を遂げているMicrosoft。その原動力を、「Build 2017」で発表された新たなクラウドサービスに探る。

» 2017年05月27日 08時00分 公開
[大河原克行ITmedia]

 企業のクラウド活用が新たなフェーズにシフトし始めている。基幹システムのクラウド化を推進する大手企業が現れるなど、業務を遂行する上での心臓部を預ける企業が少しずつ増えているのだ。

 こうしたトレンドは、クラウド上に新たな循環をもたらす。基幹システムがクラウド化されると、さまざまなデータがクラウド上に蓄積されるようになり、それを活用するアプリが開発される。そうすると、さらにクラウドの利用が増える――といった具合だ。

 こうした好循環を背景に、クラウドベンダーの勢いは増す一方であり、中でもMicrosoftのクラウド事業が好調に推移しているという。米Microsoft クラウド&エンタープライズ事業マーケティング担当の沼本健コーポレートバイスプレジデントは、「1年前には、年間数億円規模のAzureの契約をしていた企業はそれほど多くなかったが、今ではそうした企業が急増している」と語る。

 今回の本連載は、前編に続いて沼本健コーポレートバイスプレジデントへの本誌独占インタビューをお送りする。後編では、Microsoft全体のクラウド戦略と、クラウドビジネス成長の原動力について聞いた。

Photo 米Microsoft クラウド&エンタープライズ事業マーケティング担当の沼本健コーポレートバイスプレジデント

Azureのテクノロジーをオンプレミスへ拡張

――先ごろ発表した2017年度第3四半期(2017年1月〜3月)決算では、インテリジェントクラウドはもとより、IaaSとして提供しているAzureも力強い成長を遂げています。Azureは第1四半期に116%増、第2四半期と第3四半期はいずれも93%増と大幅な成長が見られますが、この勢いはどこまで続きますか?

沼本:サティア・ナデラCEOからは、第1四半期にはAzureの対前年成長率が3桁増だったのに、第2四半期以降は2桁に落ちていると指摘され、「なぜなんだ」とゲキを飛ばれさていますよ(笑)。とはいえ、AWSに比べて2倍以上のペースで成長していますし、クラウドビジネスへの手応えは強いものがあります。まだまだこの成長を続けていくことができると考えています。社内では、スローダウンする雰囲気は全くありません。

――Azureの成長要因は?

沼本:エンタープライズのコアともいえるミッションクリティカルなワークロードを、Azure上で活用しようという動きが加速しています。

 顧客と話をしていると、基幹システムをクラウドに乗せることに二の足を踏んでいた人たちが、クラウドを真剣に検討しはじめたことが分かります。少し前までは、コンサバティブな話も多かったが、「クラウドをどう使ったらいいのか」「どのワークロードをクラウドに乗せたらいいのか」といった前向きなトーンに話の内容が変わってきています。具体的には、SAPのような基幹ERPをAzureで走らせたり、生命保険会社が料率計算にAzureを使用したりといった動きなどが見られます。

 このように、基幹システムの重要なアプリケーションがAzureで使われるようになると、データがAzureに蓄積されるようになり、関連する他のアプリケーションもそのデータにアクセスする、という用途が生まれます。それによって、さらにAzureの利用が増加するというサイクルが生まれます。1年前には、年間数億円規模のAzureの契約をしていた企業はそれほど多くなかったのですが、今ではそうした企業が急増しています。

 データという観点でのサービスがますます重視されていますし、「Microsoft Build 2017」で「Azure Cosmos DB」を発表したのも、そうしたニーズに対応したものだといえます。

 また、Azureは、もともとLinuxへの対応などを図ってきましたが、MySQLやPostgreSQLに関しても、マネージドサービスとして対応します。デベロッパーの方々が使っていた技術やノウハウを、そのまま利用しながら開発できる環境を提供することで、多くのデベロッパーがAzureを利用できるようになっています。

 単にIaaSとして提供するだけでなく、開発しやすい環境を整えること、ディザスタリカバリーやポイント・イン・タイム・リカバリーといったことにもしっかりと対応できるのも、Azureならではの特徴です。

――コンテナテクノロジーのサポートも強化していますね。

沼本:Azureにおける重要な取り組みの1つが、コンテナテクノロジーのサポートです。これを深く、広く展開しています。

 Build 2017で行ったデモストレーションでもお見せしましたが、「Visual Studio」におけるコンテナのサポートを強化したことで、既存の.NETのプロジェクトを右クリックでコンテナ化し、レガシーアプリケーションをAzureにデプロイできます。その環境で、CI(継続的インテグレーション)/CD(継続的デリバリー)といわれるような、アプリケーションをモダンな形でいち早くアップデートして進化させるといった動きに対応できます。

 さらに、Azureのコンテナサービスでは、主要なOSSをほとんどサポートしています。他のクラウドベンダーの場合はどれか1つを選択するのみという点を考えると、ここもMicrosoftならではの差別化ポイントといえます。

 コンテナを、Webサイトでも、「Azure Service Fabric」でも利用でき、モダンなコンテナベースのアプリケーションを開発する際のデベロッパーの効率性を高めることができるのも特徴です。コンテナを、より広く、深くサポートしているのがMicrosoftというわけです。

――「Microsoft Azure Stack」の取り組みについてはどうですか?

沼本:今回のBuild 2017では、Azure Stackはどういうユースケースが一番成功しやすいかということをお話しできたと思っています。「多くのバーチャルマシンがあるので、それをAzure Stackで走らせよう」という、いわばホスティングのような提案ではなく、「モダンなクラウドアーキテクチャのアプリを開発したものの、制約条件のためにパブリッククラウドにデプロイできない」という際にAzure Stackを活用するといった使い方を提案しています。

 開発者から見ると、常にモダンなアーキテクチャでアプリを開発し、それを必要に応じてクラウドか、Azure Stackのいずれかに柔軟性を持ってデプロイすることが可能になるわけです。

 例えば、クルーズ専門会社の米Carnival Cruise Linesでは、船舶が海に出た際に通信環境が悪くなり、クラウド利用では制限が発生する場合があります。しかし、開発者としては、同じプラットフォームを対象にしてアプリを開発したいと考えているわけです。ここで、Azure向けに開発したクラウドアプリをAzure Stackにデプロイして、それを船舶の上で利用するといった使い方ができます。

 また税理士法人の米Ernst & Youngでは、Azure上で提供しているサービスを他国で展開する際、現地で使用するデータはローカルに保管しなくてはならない場合があります。Azureは38リージョンにデータセンターを展開していますが、それでもカバーできていない国があるわけです。このようなときも、Azure Stackを使うことができます。

 クラウドへのシフトが加速し、モダン化した新たなアプリの開発が増えていますが、現実的には全てをクラウドに移行できない部分もあります。そういった場合に、オンプレミスのニーズに制約されずに、開発者が生産性を維持しながらアプリを開発し、それを現場で利用するためにAzure Stackを活用するケースが増えていくことになるでしょう。

――HCI(ハイパーコンバージドインフラストラクチャ)が注目を集めるなか、その領域に対して、Microsoftはどんなアプローチをしていきますか?

沼本:もともとMicrosoftは、コンバージドアプライアンスの領域に向けて、NetAppやCisco Systemsをはじめ、さまざまなパートナーと取り組んできた経緯があります。また、今、お話したようなAzure Stackの取り組みもあります。HCIにおいても、Microsoftとしてはパートナー各社と連携していく姿勢に変わりはありません。

 エンタープライズユーザーがサーバを統合した形で大規模サーバを導入し、さらにそれを進化させた統合環境で運用したいといった動きは増えていくでしょう。そうしたなかでも、新たなクウラドアーキテクチャの環境でモダンなアプリを開発し、それをプライベートクラウド環境で稼働させることができるAzure Stackは、重要な意味を持つと考えています。

 Azure Service Fabricを使用したコンテナサービスの活用や、「Microsoft Azure Functions」によるサーバレステクノロジーの活用も可能ですから、単なる仮想化環境の移行にとどまらない用途でも威力を発揮することができます。

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