有力企業のトップに聞く 2017年、ITは何を生み出せるか

デジタル改革で変わるべきはIT、そして人――日本マイクロソフト・平野社長2017年 新春インタビュー

多くの企業がデジタル改革の必要性に気付き始めた2016年。クラウドファーストの製品や技術、ワークスタイル改革のノウハウでそれを支援するのが日本マイクロソフトだ。企業がデジタル改革を成功させるために欠かせない要素として、同社社長の平野氏が挙げたのは……。

» 2017年01月05日 08時00分 公開
[後藤祥子ITmedia]

新春インタビュー特集:「2017年、ITは何を生み出せるか?」

 「デジタル・ディスラプション」や「デジタル・トランスフォーメーション」という言葉に代表されるように、近年、デジタル化によって、既存のビジネスや社会の在り方が大きく変わろうとしています。

 ともすれば、危機感を煽るような捉え方になりがちですが、変化の後には必ず“創造”がある。その結果は、私たちにとって“よりよい”ものであるべきでしょう。2017年、ITは一体何を生み出せるのか――。本特集では、有力ベンダー各社のキーマンを中心に、その思いと取り組みを聞いていきます。

――2016年、社会が大きく変わったと感じた場面はありましたか?

Photo 日本マイクロソフト代表執行役社長の平野拓也氏

平野社長: ITが、“企業の経営課題の解決”に深く関わる存在になったことを実感した1年でした。企業にとって、デジタル改革が競争力を高めるための重要な施策として位置付けられるようになったのは大きな変化だと思います。

 この背景にあるのは、急速なITの進化です。今や、自動車のような大きなものから目に見えない小さなチップまで、多種多様なネットにつながるデバイスが登場し、それを集め、集約するクラウドやネットワークも急速な進化を遂げています。

 これからのデバイスは、生活のあらゆるところに存在するようになり、クラウド上に膨大なデータを送るようになるでしょう。私たちは人工知能(AI)などの技術を使って、これまで知り得なかった知見を得て、そこから全く新しいサービスやビジネスプロセスを生み出していくのです。

 このような、“サイバーフィジカルシステムの時代ならでは”の特徴を経営に生かそうという企業は増えていますし、お客さまと話していても、そのスピードがどんどん速まっているのを感じます。

 こうした“攻めのIT”の流れはますます拡大していきますし、今後はそれにAIも深く関わってきます。組織や人間が持つ特性をAIがどのような形で補完し、より強くしていくかが、今後のビジネスの焦点になるでしょう。

 また、目的を同じくする企業が手を取り合って革新を起こしていこうという、コ・イノベーションの動きが出てきたのも、ここ数年のトレンドだと思います。新たなビジネスやフレームワークを共に作り、それを展開させよう、という話は確実に増えています。

 実際のところ、共創することで判断のスピードが上がったり、IT面の戦略性が高まったり、新たなシナリオが出てきたり……ということが起こっており、この流れは加速するでしょう。

 2016年は、企業が“ITとビジネスの新たな潮流”を経営戦略として捉えるファーストステップの1年だったのではないでしょうか。企業の中に「変わらなければ」という機運が高まったことを実感しています。

――これから起こるパラダイムシフトは、とても大きなインパクトを伴うものであり、企業が「変わらなければ」と分かっていても、なかなかその一歩を踏み出せないという状況もあります。

平野社長: 確かに企業によっては、これまで積み上げてきたビジネスを捨てるような決断を迫られることすらありますから、変革への一歩を踏み出すのは難しいかもしれません。ただ、そこで二の足を踏むか、ビジョンを定めて大胆に改革を進めるかで、ビジネスのスケールは相当大きく変わると思います。

――一歩を踏み出せる企業は、どこが違うのでしょうか?

平野社長: 経営者がビジネスに対する明確なミッションを持ち、その遂行に責任を持てるかどうか、だと思うんです。

 ミッションというと重厚長大な感じがしますが、昨今では企業を取り巻く環境も技術もどんどん変わっていますから、その遂行の仕方もどんどん変えなければならない。そうした中で、改革に対するブレない気持ちを持ちながら、「最も適した方法は何か」「最短距離はどこか」――といったことを模索し続けるリーダーがいる企業は、やはり変化に強いですよね。

 あとは、リーダーが“どれだけ改革に本気なのか”につきるのではないでしょうか。ベタな話ではありますが、「なぜ、今、変わらなければならないのか」ということについて、どれだけ本気で熱く語れるかは、とても重要なことです。

 Microsoftもサティア・ナデラがCEOに就任してから、体制やビジネスモデルが大きく変わりました。この変革がうまくいっているのは、ナデラがこれからのMicrosoftが目指すミッションを制定し、それをことあるごとに社内外で説いていることが大きいと思うんです。

 ナデラは、技術について語る前に、必ずミッションについて話します。「私たちのミッションは○○だから、それを成し遂げるために○○という技術が必要なんだ」といった具合です。日々、このような話を聞いていれば、現場のスタッフは自分が手掛けている業務に納得できますし、“大義のために働いている”という気持ちを持つことができます。改革や変化には、不安と恐れがつきものですが、ミッションの共有でそれを払拭できるのです。

――デジタル改革を進めるためには技術だけはでなく、環境やコミュニケーションも重要であると。

Photo

平野社長: 実は、フェイストゥフェイスのコミュニケーションは今後、これまで以上に重要になってくると思っています。

 私たちはOffice 365などクラウドサービスをフル活用し、またテレワーク勤務制度の導入や、フレックスタイム制度のコアタイム廃止といった取り組みで、いつ、どんな場所でも働ける環境を作っていますが、その一方で、上司と部下の1対1の面談の時間というのを月1回、必ず持つように徹底しているんです。この面談の場では、これからのキャリア形成の話や健康の話など、あえてビジネスに関係ないことも話すよう促しています。

 ビジネスの話にしても、成果や進ちょくを聞くだけでなく、「他の人が成功するためにどんな手助けをしたのか」「自分のミッションを達成するために誰にどんな風に助けてもらったのか」といったことを聞いて、それを人事評価に反映しています。

 なぜ、そんなことをするのかというと――変化の時代には、“安心して失敗できる場”を作ることが重要だからです。会社が変化するときには、絶対に誰かが不安な状況に置かれることになりますし、失敗する回数や頻度、割合も多くなります。昨日と同じことをしていたら、変化など起こせないですから当然です。加えて仕事は複雑化する一方ですから、社員のプレッシャーは相当なものでしょう。

 そんな中で、社員に挑戦する姿勢を持ち続けてもらうためには、“安心して失敗できる”環境や制度、カルチャーを作ることが不可欠で、1対1の面談や手助けを評価する制度はまさにこの部分なのです。このようなコミュニケーションの場面でも、ITは大きな役割を果たしています。

――2017年、ITは何を生み出すことができると考えていますか?

平野社長: 2017年にはAIの民主化が加速し、さまざまなソリューションやサービスが出てくるでしょう。私たちも、がんの研究や自然言語を使ったドライブスルーの自動オーダーなど、さまざまな企業とAIを使った実証実験に取り組んでいます。2017年はAIを活用したサービス開発を目指す企業向けの提案を充実させるとともに、協業も強化していきます。

 また、これまでにも増してAIの倫理面がクローズアップされるようになりますから、当社自身がどのような倫理観でAI関連ビジネスを展開していくのか明確にし、さらには他のIT企業らと設立したコンソーシアムを通じての情報発信も展開し、社会の中でのAIの正しい定義づけをするような活動も重要になるはずです。

 加えて日本では、東京2020オリンピック・パラリンピック競技大会が控えており、2017年はプロジェクトの動きが加速します。日本は少子高齢化に伴う労働人口の減少や、それに伴う労働時間の増加という課題を抱えながら2020年のイベントを成功させなければならず、そのためには働き方を変える必要があります。

 この分野に大きな変革をもたらすために、私たちが培ってきたノウハウやソリューションを役立ててもらえたらと思っています。

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