JALが米Microsoftのホログラフィックコンピュータ「Microsoft HoloLens」を使った業務アプリを開発。パイロットや整備士の訓練に3Dホログラムを活用し、場所や時間を問わない学習を実現するという。
少し前まではSFの世界と思われていた「ホログラム」をビジネスに活用できないか――そんなチャレンジを日本航空(JAL)が始めている。
JALは4月18日、米Microsoftのホログラフィックコンピュータ「Microsoft HoloLens」を使い、運航乗務員(パイロット)や整備士の訓練を行う業務用アプリケーションを開発したと発表した。現段階ではコンセプトモデル(PoC=Proof of Concept)とのことだが、今後、実用化に向けた検証を行っていくという。この取り組みは航空会社で初、そしてアジア初のHoloLens導入事例となる。
HoloLensは、Microsoftが開発したヘッドマウントディスプレイ型デバイス。シースルー型の眼鏡に映像を投射し、あたかも現実世界にホログラムが現れているような感覚を味わえる。ユーザーの指でホログラムが動かせるなど、インタラクティブな操作ができるのが特徴だ。同社はこれをMR(Mixed Reality=混在現実)と呼ぶ。
同日行われた説明会では、JALが日本マイクロソフトの協力を得て開発した2つのアプリケーションを披露した。整備士用の訓練アプリ、そしてパイロットの訓練アプリのどちらも「実機やシミュレーターによる訓練機会の少なさ」を解決するためのツールだ。
まず整備士用の訓練アプリ(ボーイング787型用エンジン 整備士訓練用ツール)は、ホログラムでエンジンの構造や部品名称などが学べる。本物のエンジンを使って学ぶのは、航空機が運航していない時間に行う必要があるため、機会が限られるうえ、分解して内部構造を知るといった学習もしづらい。
このアプリを使えば、今まで教科書の平面図を使って学んでいたエンジンの構造を立体的かつリアルに把握でき、指で回転させたり、自らが周りを回ったりすることで実物大のエンジンを360度どこからでも見られる。映像のほか、音声ガイダンスで構造を確認することも可能だ。
一方のパイロット向け訓練アプリ(ボーイング737-800型機 運航乗務員訓練生用トレーニングツール)は、コックピット内の操作をホログラムで疑似体験できる。
現在、パイロット訓練の初期段階では、主にコックピット内の計器やスイッチを描いた写真パネルに向かって、声を上げてイメージトレーニングを行っているという。デジタルシミュレータはあるものの、1人の訓練生が利用できる時間が限られているためだ。写真パネルからシミュレーターの訓練に移った際に、戸惑う訓練生も少なくないという。
アプリでは実物大のコックピットを再現し、生徒が手順に迷うと、次にどの計器を見るべきかなどをガイドしてくれる。計器やスイッチに手を伸ばすなど、自らの体を動かしてシミュレーションし、操作を覚えられる点が特長だ。どちらのアプリも、より高い学習効果が見込めるとともに、HoloLensさえあれば、場所や時間にとらわれずに学習できることもメリットといえる。
AR(拡張現実)やVR(仮想現実)と異なり、自分の指を画面越しに見られることが、Oculus RiftなどのHMDではなく、HoloLensを採用した理由だという。JALがMicrosoftからHoloLensを紹介されたのは2015年4月のこと。そこからアプリの開発が始まるまでに約8カ月がかかったという。
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