トップ企業に聞く、ITと社会貢献

ITの力で“人と企業の可能性”を最大限に引き出す――マイクロソフト・平野社長2016年 新春インタビュー特集

2015年7月、「徹底した“変革”の推進」というメッセージを掲げてマイクロソフトの社長に就任した平野氏。2016年は、ITの力で「“地球上の全ての人と組織”に力を与える」取り組みを加速させるという。

» 2016年01月03日 10時00分 公開
[後藤祥子ITmedia]

新春インタビュー特集:「トップ企業に聞く、ITと社会貢献」

 自然破壊、超高齢化社会、経済格差、ダイバーシティ……現在、私たちの世界はさまざまな困難に直面しています。政界や経済界など、いろいろなプレイヤーがその解決に向けて動いていますが、近年はITベンダーも有力なプレイヤーになりつつあります。

 ITでどのように社会課題に向き合い、どう解決していくのか――。本特集では、有力ベンダー各社のキーマンに、その取り組みと思いを聞いていきます。

Photo マイクロソフト代表執行役社長の平野拓也氏

―― ITは今、社会問題の解決や社会貢献の分野で“どのような役割が果たせるか”に注目が集まっています。さまざまな社会問題がある中、マイクロソフトはどこに注目していますか。

平野拓也氏(以下、平野氏) マイクロソフトは、「地球上の全ての個人と全ての組織が、より多くのことを達成できるようにする」というミッションを掲げています。ここにつながるのが、「ワークスタイル変革」。少子高齢化問題が深刻化する中、日本は今、政府を挙げて、“どのような形で強さを打ち出していくか”というテーマに取り組んでいます。私たちもこの分野の取り組みに注力しており、かなりの手応えを感じています。

 2012年から協賛企業を募って、社員にテレワークやリモートワークを推奨する「テレワーク週間」を実施しているのですが、2014年は32社だった参加企業が2015年には651社と急増するなど、関心が高まっていることを実感しています。

 経営層に話を聞くと、皆さんが「時代に合った働き方とはどのようなものなのか」「生産性を高めるためにどうしたらいいのか」「離職率を下げるためにできることは」「どうしたら従業員が満足度ややりがいを感じられるようになるのか」といった課題を認識しているんですね。今や人材不足も深刻で、新卒も中途採用も、いい人材は取り合いになって採用が難しくなっていますから、獲得した人材が“長く働いてくれる環境づくり”も重要になっているわけです。

 マイクロソフトは、こうした課題に対応するための新たなOSやデバイス、サービスを提供するとともに、自らがそうしたクラウドサービスやデバイスを活用して新しい働き方を実践し、その体験を発信することで“ワークスタイル変革”の波を起こそうとしています。

 その一環として、地方自治体と一緒に、“ワークスタイル変革”視点での地方創生にも取り組んでいます。地方にサテライトオフィスやテレワークセンターを整備し、都心から来た人に試しに働いてもらいながら、場所や時間にとらわれない働き方をするための環境作りを行っています。

―― 時間や場所にとらわれない自由な働き方をするために、安全面の確保も重要になります。

平野社長 そこはマイクロソフトとして注力しているところですね。

 ITセキュリティは今や、現場の課題から経営課題になり、これからは社会の課題となっていきます。今にも増して人々が移動する先でさまざまなデバイスやサービスを使うようになりますから、いつ、どこでも安全に情報にアクセスできるようにするための対策がより一層、重視されるようになるはずです。

 こうした環境下では、ただ守るだけではなく、先手を打つことも重要です。マイクロソフトは国防省に次いでサイバー攻撃を受けている組織といわれていますが、そこから得られる知見や膨大なデータをチェックして分析し、攻撃のトレンドを把握できるからこそ、先回りした対応ができるわけです。

 セキュリティ面では「プライバシー&コントロール」「セキュリティ」「コンプライアンス」「透明性」の4つの領域から企業の情報を守る取り組みをしています。例えばプライバシー面では、たとえセキュリティの名の下に政府がデータに干渉しようとした場合でも、“お客さまのデータはお客さまのもの”という姿勢を貫き、保管されているデータは一切渡さないと明言しています。日本にデータセンターを設置しているのも、安心して使っていただくための取り組みの1つです。

 セキュリティについては、誰もが安心できる環境をつくることで、社会に貢献しなければならないと考えています。

―― IoT時代の到来で、モノが発信するデータのセキュリティも重視されはじめています。

平野社長 もちろん、IoT時代のセキュリティ対策も重要です。2015年にリリースしたWindows 10は、画面を持たない小型デバイスから84インチの大画面デバイス、XboxやHoloLensといった新しいデバイスまで、全てひとつのWindows、共通のプラットフォームで動きます。共通のアプリやドライバで対応できるだけでなく、セキュリティ面のメリットもあります。(暗号化などの)Windowsのセキュリティ機能が使えますし、アップデートもWindowsの機能を通じて行えます。デバイスごとに異なるプラットフォームを使った場合には、これほどスムーズにはいかないでしょう。

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―― 平野社長は社長就任の際に、「徹底した“変革”の推進」を掲げていました。その観点での社会貢献について教えてください。

平野社長 イノベーションの活性化とそれに対する支援はとても重要だと考えています。教育の現場から起業の支援に至るまで、とても大きなフォーカスポイントになってくるでしょう。

 海外に比べて日本では起業する人が少ないという話や、起業してもサポート環境が不足しているという話をよく耳にします。IT業界は伝統だけではなく、イノベーションこそが重要な世界ですから、マイクロソフトのように幅広いIT技術やサービス、デバイスをしっかり持っている企業がスタートアップの成功に向けたお手伝いを徹底してやっていくことが大切だと思っています。

 新たな要素技術を紹介したり、技術を無償で使える環境を用意したり、アドバイザリーの役割を担ったり、さまざまなビジネスを手掛けるパートナーを紹介したり――といったところで私たちが貢献できると思っています。私たちが運営している「マイクロソフト イノベーションセンター」はまさに、その核となる存在ですね。

―― グローバル企業としての社会貢献についてはどのようにお考えですか。

平野社長 「マイクロソフトは先進国のためだけの企業ではなく、なかなか人生にチャンスを見いだせない人や、追い込まれている人たちを支援する企業である」ということです。例えば、グローバル視点の社会貢献の象徴ともいえるのが、Windows 10のローンチイベントだったと思います。これまでメジャーなOSの発表は、ニューヨークやロンドン、パリといった大都市で行うのが慣例となっていましたが、CEOのサティア・ナデラはメディアがほとんどいないアフリカの小さな村で行ったんですね。

 世界各国には、貧困問題や疾病対策などさまざまな社会問題がありますが、私たちはほぼ全ての問題にコミットしているんですね。HIVのコード解析の仕組みを構築したり、貧困地帯に学校を作ったり、CO2削減の施策を展開したり……。こうした取り組みに共通しているのは、“人がさまざまな目標を達成するための支援をする”ということです。

 サティアは「“この地球上の全ての人と組織”に力を与える」というミッションを重視しており、私もこの考えに共感しています。サティアは2015年12月に、社会貢献の取り組みについてワンランク上のステージを目指すと話しており、米国本社にそのための組織を作っています。2016年は、社会貢献に向けたミッションをさらに加速させる年になるでしょう。

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